睡蓮と眠る

睡蓮と眠る

 

 

 

奥山慎一郎(おくやましんいちろう)

 


白井蓮薫(しらいれんか)

 


逢沢葉子(あいざわようこ)

 

 

 

 


慎一郎:・・・あー!!ダメだダメだ!!

慎一郎:ぜんっぜん!ダメだ!!

慎一郎:何も書けん!!何も思いつかん!!

 


葉子:・・・せんせ。どうしました?

葉子:大声なんか出されたら、また隣近所で怒られてしまいますよ?

 


慎一郎:あー・・・葉子君か。

慎一郎:・・・キミは恋愛という物をしたことがあるかな?

 


葉子:恋愛・・・ですか。

 


慎一郎:あぁそうだ。

慎一郎:私はこの世に生まれてから、一度も恋愛というものをしたことがない。

慎一郎:故に、恋愛という珍妙な物をどう書いていいのか、わからんのだよ。

 


葉子:恋愛をしたことが・・・ない。

葉子:そうですね・・・。初恋もないんですか?

 


慎一郎:初恋は恋愛と呼べるのか?

慎一郎:幼い頃に世話を焼いてくれた令嬢には・・・確かに恋心を感じていたが・・。

慎一郎:それとこれとは別ではないか?

 


葉子:ふふ。

葉子:殿方は幼くとも、立派になられても、変わらないと思いますよ。

葉子:乳飲み子と同じように求めてくるのですから。

 


慎一郎:何とでも言えばいいさ。

慎一郎:葉子君だって、恋の一つや二つ、経験はあるのだろ?

 


葉子:そう・・・ですね・・・。

 


慎一郎:それを私にご教授してはもらえないだろうか。

 


葉子:・・・秘密です。

 


慎一郎:何故だ!?

 


葉子:それは・・・胸に手を当て、ご自身にお聞きになればわかるのでは?

 


慎一郎:・・・それは・・・どういう・・・

 


葉子:ふふ。秘め事は無理やり聞いてはいけませんよ。

 


慎一郎:それも・・・そうか。

慎一郎:・・・あー!!だめだ!!何も思いつかん!!ちょっと出てくる。

 


葉子:いってらっしゃいませ。

 


慎一郎:あぁ、それと葉子君。

 


葉子:はい?

 


慎一郎:自由に出入りしていいとは言ったが・・・

慎一郎:戸締りだけはちゃんとしておくように。

 


葉子:ふふ。かしこまりました。

 : 

 : 

 :【間を開ける】

 : 

 : 

慎一郎:ふぅ・・・。

慎一郎:筆が止まるたびに公園を散歩。

慎一郎:それで、筆が乗るのか?奥山慎一郎・・・。

慎一郎:・・・自問自答の独り言が増えてきたな。

慎一郎:心の病にでもならなければ良いのだが・・・

慎一郎:・・・あ。しまった・・・また独り言を・・・。

慎一郎:・・・池か。

慎一郎:池に咲く・・・睡蓮・・・。こういうのはどうだろうか。

 


蓮薫:こういうの・・・とは私の事でしょうか?

 


慎一郎:あぁ。そうそう。

慎一郎:君のような女性だ。

慎一郎:ってうわっ!!想像していた美女が出て来た!?

 


蓮薫:ふふ。

蓮薫:慎一郎様がご想像されたのですから・・当たり前じゃあないですか。

 


慎一郎:それはそうだが・・

慎一郎:・・・頭でも打ったか?

 


蓮薫:頭を打ってはおりませんし、

蓮薫:悪いものを食べたわけでもありませんよ。

蓮薫:慎一郎様の実力でございます。

 


慎一郎:・・・登場人物を具現化できるくらいの実力

慎一郎:うむ!気に入った!!

慎一郎:そういう事にしておこう!!はっはっは!!

 


蓮薫:具現化・・と言っていいものではありませんね。

蓮薫:私は慎一郎様の瞳にしか見えない幻です。

蓮薫:他の人には姿は見えませんし、声も聞こえません。

 


慎一郎:そ・・そうか・・・残念だ。

慎一郎:真の文豪なら、その領域に辿り着くと思ったのだが・・・

 


蓮薫:それで・・・?私はこれから何をすれば良いのですか?

 


慎一郎:あ、ああ・・・そうだな

慎一郎:では、作中の男と恋に落ちて欲しいのだ。

 


蓮薫:恋・・・ですか。

蓮薫:今アナタの妄想で生まれた私が、いきなり誰かと恋をするのですか?

 


慎一郎:う、生み出したのは私だ。

慎一郎:しっかりやってくれたまえ。

 


蓮薫:でも・・・

 


慎一郎:あぁ、そういえば名前もまだ決めていなかったな。

慎一郎:蓮が薫と書いて蓮薫(れんか)。白井蓮薫はどうだろうか。

 


蓮薫:しらい・・・れん・・か。

蓮薫:いい響きですね・・・気に入りました。

 


慎一郎:そうだろう。では早速・・・

 


蓮薫:いいえ。まだ・・・

 


慎一郎:ええい!何が不満なのだ!!

 


蓮薫:本当の恋をしたいのです。

 


慎一郎:本当の恋?私が書いた男では不満なのか?

 


蓮薫:いいえ。アナタの書いた殿方はとても素敵だと思います。

蓮薫:ですが・・・。私がお慕いしたい殿方ではないのです。

 


慎一郎:では聞くが、蓮薫君。

慎一郎:今生まれたばかりのキミが慕っている相手とは一体誰なのかな?

 


蓮薫:・・・慎一郎様でございます・・。

 


慎一郎:・・・なに?

 


蓮薫:アナタも本当の恋を知らないのでしょう?

 


慎一郎:な、何故それを!?

 


蓮薫:ふふ。だって私、アナタの妄想なのですよ?

蓮薫:私が言えることは、慎一郎様が言ってもらいたい言葉だけです。

 


慎一郎:で、では・・・私自信が、自分の思い描いた登場人物に・・・

慎一郎:好かれたいと思っていると?

 


蓮薫:えぇ。そうです。

 


慎一郎:・・・まぁ。恥ずかしい事だとは思う。

慎一郎:だが、そんなことは私しか知りえないのだから・・・良しとするべきだな。

 


蓮薫:ふふ。では・・・よろしくお願いいたします。

蓮薫:私はここでいつもお待ちしておりますので。

 


慎一郎:ん?何故・・・此処だけなんだ?

 


蓮薫:私は睡蓮ですから。

蓮薫:慎一郎様はここで睡蓮を見ないければ、私を思い出すことができないのです。

 


慎一郎:そう・・・なのか。

 


蓮薫:えぇ。そうです。

蓮薫:また・・・会いに来てくださいね。

 


慎一郎:あ・・・あぁ。

 : 

 : 

 :【間を開ける】

 : 

 : 

葉子:せんせ。おかえりなさい。

 


慎一郎:・・・ただいま。

 


葉子:何か・・・ありました?

 


慎一郎:うーん・・・。散歩をしていた・・・はず。

 


葉子:それで、恋愛については何かわかりました?

 


慎一郎:・・・まぁ、これから考えるとするよ。

 


葉子:そう・・・ですか。

葉子:・・・ねぇせんせ。

 


慎一郎:ん?なんだ?

 


葉子:何か・・・あったんじゃあないですか?

 


慎一郎:・・・。

 


葉子:顔に書いてますよ?

葉子:いい事があったって。

 


慎一郎:そんな馬鹿な!?

 


葉子:ふふ。先生は顔に出すぎです。

 


慎一郎:・・・なぁ。葉子君。

 


葉子:はい?

 


慎一郎:・・・自分の作品の登場人物が・・自分に恋をするという事は・・・あるのだろうか?

 


葉子:んー・・・。すみません。言っている意味がよくわかりません。

 


慎一郎:自分で言っていて、意味が分からないんだが、

慎一郎:登場人物が私の目の前で頬を赤くして、私を慕っていると言ってきたのだぞ!?

 


葉子:登場人物が目の前に現れるというのは、まぁ百歩譲ってあるとしましょう。

葉子:先生は物書きなんですから。

 


慎一郎:・・・信じてくれるのか?

 


葉子:えぇ。私は先生が欲しい言葉がわかりますので。

 


慎一郎:そうか・・・そうかぁ!!

慎一郎:それでだな!!葉子君!!

 


慎一郎:私は今!!恋人がいるという事になるのだ!!

慎一郎:私しか見えなくて、私にしか聞こえないのが残念なくらいの美女なのだよ!!

 


葉子:それは良かったですねぇ。

 


慎一郎:・・・いや。まて。

慎一郎:まてまてまてまて・・・。

 


葉子:はい?なんでしょうか?

 


慎一郎:・・・先ほど言っていた言葉・・・。

 


葉子:言っていた言葉?

 


慎一郎:私が欲しい言葉が・・・わかると言っていたな?

 


葉子:えぇ。わかりますよ?

 


慎一郎:同じような言葉を登場人物に言われたのだが・・・。

 


葉子:ふふ。そうだったんですか。

 


慎一郎:葉子君・・・キミは・・・

 


葉子:でもせんせ。

葉子:私は先生の登場人物ではありませんよね?

 


慎一郎:あ、あぁ・・。確かに・・。

 


葉子:ふふ。別に先生の登場人物でなくても・・・

葉子:先生の気持ちはわかるんですよ。

 


慎一郎:・・・私はそんなにわかりやすいか?

 


葉子:えぇ。とっても。

 


慎一郎:・・・そうか。

 : 

 :

 :【間を開ける】

 : 

 : 

蓮薫:・・・へぇ。

蓮薫:そんな事が・・・。

 


慎一郎:あぁ・・・。

慎一郎:その後私が思っている事を全て当てられてしまってな。

 


蓮薫:ねぇ。慎一郎様。

蓮薫:慎一郎様は女心はご存じではないのですね。

 


慎一郎:おんな・・・ごころ・・・。

 


蓮薫:はい。女心です。

蓮薫:お慕いしている殿方が、他の女性の話をするというのは良い思いはしないんですよ?

 


慎一郎:・・・そうなのか?

 


蓮薫:えぇ。

 


慎一郎:・・・なぁ。一つ聞いていいか?

 


蓮薫:なんですか?

 


慎一郎:蓮薫は私の登場人物・・・つまり私の妄想で作られたのだろう?

 


蓮薫:そうですね・・・。

 


慎一郎:私が知りえない事を、何故蓮薫が知っているんだ?

 


蓮薫:ふふ・・。秘密です。

蓮薫:女は秘密が多い方が、素敵に見えると思いません?

 


慎一郎:・・・前に聞いたセリフだ。

 


蓮薫:そうなんですか?

 


慎一郎:・・・あぁ。だからか。

 


蓮薫:えぇ。そういう事です。

 


慎一郎:葉子君の言っていた・・・おっとすまない。

慎一郎:他の女性の話をしてはいけない・・・だったな。

 


蓮薫:・・・はい。

 


慎一郎:・・・そろそろ筆が進みそうだな。

 


蓮薫:私が出てくる小説ですか?

 


慎一郎:あぁ。そうだ・・・。

慎一郎:蓮薫のお陰でいい文章が書けそうだ。

 


蓮薫:いいえ。私は何もしていませんよ。

蓮薫:私は慎一郎様のお傍にいただけです。

 


慎一郎:蓮薫がいてくれたから、本が書けるんだ。

 


蓮薫:・・・慎一郎様。お願いがあります。

 


慎一郎:ん?なんだ?

 


蓮薫:・・・私を、抱きしめてはもらえないでしょうか?

 


慎一郎:・・・此処でか?

 


蓮薫:はい。此処で。

 


慎一郎:・・・。それは・・・一目があるではないか・・・。

 


蓮薫:見える人なんかいませんよ。

蓮薫:それに・・・私が慎一郎様に抱きしめてもらいたいんです。

 


慎一郎:・・・私が独りで何かを抱きしめてるように・・・見えるんじゃあないのか?

 


蓮薫:慎一郎様・・。

蓮薫:女性は、して欲しいと言われた時にやって欲しいものですよ。

 


慎一郎:・・・。

慎一郎:そう・・・か。わかった。

 


蓮薫:んっ・・・。

蓮薫:・・・ありがとう・・・ございます。

 


慎一郎:蓮薫?・・・泣いて・・いるのか?

 


蓮薫:これは・・・うれし涙でございます・・・。

 


慎一郎:・・・そうか。

 


蓮薫:どうか・・・もう暫く・・・このままで・・・。

 


慎一郎:・・・わかった。

慎一郎:

慎一郎:

慎一郎:

 :【間を開ける】

 :

 :

 :

葉子:・・・お帰りなさい。

 


慎一郎:ただいま。

 


葉子:・・・どうかしましたか?

 


慎一郎:あ、あぁ・・・ちょっとな。

 


葉子:・・・そうですか。

 


慎一郎:・・・聞いてくれないのか?

 


葉子:えぇ。聞きますよ。

 


慎一郎:・・・蓮薫の話をしただろ?

慎一郎:・・・抱きしめて欲しいと言われた。

 


葉子:抱きしめたんですか?

 


慎一郎:あぁ。

 


葉子:では、これで恋愛がどういう物なのか、わかったんじゃあないですか?

 


慎一郎:そう・・・だな。

 


葉子:・・・他に何かあったんですか?

 


慎一郎:蓮薫が・・・。葉子君。キミと同じセリフを言ったんだ。

 


葉子:へぇ・・・。そうなんですね。

 


慎一郎:二度も同じことがあったんだ・・・。

慎一郎:私は・・・もしかしたら・・・キミのの事を・・・。

 


葉子:せんせ。

 


慎一郎:な、なんだ?

 


葉子:・・・もう、いいじゃあないですか。

葉子:先生にはもう恋人がいるではありませんか。

 


慎一郎:所詮妄想だ!!

 


葉子:・・・ふふ。

葉子:いけませんよ。そんな事を言ったら・・・蓮薫さんが悲しみますよ?

 


慎一郎:悲しむ・・・?

慎一郎:妄想が悲しむだと?

 


葉子:えぇ。

葉子:だって・・・蓮薫さんは、先生の心に住んでいるんですもの。

葉子:浮気をしたと思えば、蓮薫さんは二度と先生には会ってくれませんわ。

 


慎一郎:・・・。

 


葉子:せんせ。

葉子:私は全然かまいません。

葉子:どうか蓮薫さんとお幸せになってください。

 


慎一郎:よう・・・こ・・・くん・・・。

慎一郎:

慎一郎:

 :【間を開ける】

 :

 :

 :

蓮薫:・・・浮気ってどこからが浮気だと思います?

 


慎一郎:・・・は?

慎一郎:いきなり何なんだ?

 


蓮薫:だって、慎一郎様・・・。

蓮薫:・・・なんでもありません。

 


慎一郎:・・・この間、葉子くんの事か?

 


蓮薫:・・・はい。

 


慎一郎:葉子くんも蓮薫も・・・

慎一郎:一体何故なんだ!?お前は私が作り出した妄想で・・・。

 


蓮薫:妄想だと、別に恋人を捨ててもいいと?

 


慎一郎:・・・

 


蓮薫:そう思われているのですね。

 


慎一郎:だが・・・そうではないか!!

慎一郎:お前は私の妄想で・・・他の誰にも見えないのだぞ!!

 


蓮薫:それがどうしたと言うのですか?

蓮薫:慎一郎様だけにしか見えぬ女では、何がいけないのですか!?

 


慎一郎:だから・・・

 


蓮薫:世間の目を気にされているのですか?

蓮薫:そんな物、見て見ぬふりをすればいいではありませんか。

 


慎一郎:それが出来たら苦労は・・・

 


蓮薫:慎一郎様。

蓮薫:ご自身の職業をお忘れですか?

 


慎一郎:・・・急にどうした。

 


蓮薫:慎一郎様は小説家。

蓮薫:しかも、頭に「売れない」がついてしまう小説家。

 


慎一郎:・・・何が言いたいんだ?

 


蓮薫:世間の目を気になさるのでしたら・・・

蓮薫:何故、ちゃんと働かないのですか?

蓮薫:何故、御国の為にシベリアに行かなかったのですか?

蓮薫:何故・・・。他の事で他人の目を気になさらないのですか?

 


慎一郎:だまれぇぇぇ!!!

慎一郎:だまれだまれ・・・だまれえええ!!!

慎一郎:お前に何が解る!?

慎一郎:生死を賭けた力作を生み出しても、

慎一郎:世の中ではゴミと扱われてしまう悲しみを・・・お前が理解できるか!?

慎一郎:限界まで絞り込んで生み出した言葉を・・・

慎一郎:他人に鼻で笑われる憎しみが・・・お前に理解できるのか・・・。

 


蓮薫:・・・慎一郎様はどう言って欲しいのですか?

蓮薫:肯定?それとも否定?

 


慎一郎:・・・わからん・・・。

 


蓮薫:ふふ。

蓮薫:どっちを言われても・・・慎一郎様は泣きそうになりますね。

 


慎一郎:・・・もう。やめにしよう。

 


蓮薫:・・・そう。ですか。

蓮薫:寂しくなりますね。

 


慎一郎:寂しい?

 


蓮薫:はい。寂しいです。

 


慎一郎:・・・。そう言って欲しいのか。私は。

 


蓮薫:ふふ。

蓮薫:どうでしょうね。

蓮薫:では、また何処かでお会いしましょう。

 


慎一郎:・・・あぁ。

 


蓮薫:さよなら。慎一郎様

蓮薫:

蓮薫:

 :【間を開ける】

 :

 :

慎一郎:・・・ただいま。

慎一郎:葉子くん?今日はいないのか?

慎一郎:葉子くん・・・。

慎一郎:・・・(溜息)

 


葉子:せんせ?

葉子:私を呼びましたか?

 


慎一郎:え?あぁ・・いたのか・・・。

 


葉子:えぇ。いますよ。此処に。

 


慎一郎:・・・蓮薫と別れたよ。

 


葉子:そう・・ですか。

 


慎一郎:あぁ。

慎一郎:なぁ葉子くん。キミはまだ私の事を好いているだろうか。

 


葉子:・・・直接言った覚えはありませんが・・・。

 


慎一郎:確かに・・・言ってはいなかったが。

慎一郎:そう感じたんだ。

 


葉子:・・えぇ。お慕いしております。

葉子:私も。蓮薫さんも。

 


慎一郎:・・・なぜ蓮薫が出てくるんだ?

 


葉子:だって。蓮薫さんとお付き合いしていたではありませんか。

 


慎一郎:・・・もう別れた。

 


葉子:それは蓮薫さんも承諾していることなのですか?

 


慎一郎:直接言った。

慎一郎:アイツは私の妄想なんだ。妄想に直接別れを言ったと言うのも変な話だが、

慎一郎:アイツもそれを承諾した。だからもう別れたんだ。

 


葉子:・・・と言っておりますが。

葉子:どうなんですか。蓮薫さん

 


慎一郎:・・・は?

慎一郎:葉子くん・・・キミは何を言って・・・

 


蓮薫:えぇ。私は寂しいと言いました。

 


慎一郎:!?

 


葉子:そうでしたか・・・。

葉子:先生と蓮薫さんはとてもお似合いだったと思ったんですけどね。

 


蓮薫:そう言って貰えて嬉しいのですが・・。

蓮薫:慎一郎様は葉子さんをお慕いしておりますので・・・。

 


慎一郎:な・・・なぜ・・・

 


葉子:ふふ。

葉子:私の場合、先生が私の事に気づいていなかったから。好いてくれただけですよ。

葉子:ねぇせんせ。

葉子:私の事・・・気づいていませんでしたよね?

 


慎一郎:何故蓮薫と話している!!!!

 


葉子:・・・ね?気づいてないでしょ?

葉子:私が先生の妄想でできているって事に気づいていないのよ。

 


慎一郎:そ・・・そんな・・・。

 


蓮薫:慎一郎様。私が気づかせてあげますね。

蓮薫:恋愛をした事がないとおっしゃられていましたが、はたして本当にそうでしたでしょうか?

 


慎一郎:・・・初恋か。

 


蓮薫:えぇ。その初恋の女性。

蓮薫:幼い頃に世話を焼いてくれた令嬢・・・でしたね。

蓮薫:その女性は、一体どんな方でしたか?

 


慎一郎:どんな人って・・・。

慎一郎:大人びていて、笑顔なのに、どこか涼し気な表情が魅力的で・・・

慎一郎:・・・葉子くんに似ている・・・。

 


蓮薫:その女性のお名前は?

 


慎一郎:・・・ようこさん。

 


葉子:・・・気づきましたか?

 


慎一郎:そんな・・・嘘だ・・・

 


葉子:いいえ。嘘ではありませんよせんせ。

葉子:アナタは私を妄想で作った。

葉子:昔好きだった、年上の女性。初恋の相手をアナタは作ったんですよ。

 


慎一郎:や・・・やめてくれ・・

慎一郎:それ以上・・・それ以上俺に話さないでくれ・・・。

 


葉子:いいえ。話します。

葉子:だって、私は先生の妄想。

葉子:アナタが言って欲しい言葉しか言えないんですもの。

 


慎一郎:だ・・・だれか・・・。

慎一郎:誰かたすけ・・・

 


蓮薫:無駄ですよ。

蓮薫:だって、慎一郎さんの周りには・・・誰もいませんもの。

蓮薫:家で帰りを待ってくれた女性は妄想。

蓮薫:慎一郎様を愛してくれた人は妄想。

蓮薫:・・・アナタには誰もいないんですよ。

蓮薫:皆アナタの周りから消えて行ったんですよ。稼ぎもしないで小説なんて書いていたせいで。

 


慎一郎:あ・・・あああ・・・・・

 


葉子:あら、どうやら私たちも消えてしまうようです。

葉子:・・・せんせ。また何処かでお会いしましょう。

 


蓮薫:さようなら。

 


慎一郎:ま・・・まって・・・待ってくれ!!!

慎一郎:一人に・・・独りにしないでくれ・・・!!!

慎一郎:

慎一郎:

慎一郎:

 :【間を開ける】

 :

 :

慎一郎:あれから・・・何日たっただろうか。

慎一郎:何日・・・孤独で小説を書き続けただろうか・・・。

慎一郎:完成したら・・・

慎一郎:此処に来たら、また二人に会えると思っていたのに・・・。

慎一郎:・・・ふふ。

慎一郎:蓮の花が咲いているじゃあないか。

慎一郎:死ぬには・・・いい日だな。

 


葉子:小説家。奥山慎一郎は溺死という形で生涯の幕を閉じた。

葉子:最後の作品は死んだ池の近くで発見される。

 


蓮薫:作品の内容は一人の男が妄想で二人の女性を生み出し、

蓮薫:恋愛をするが、上手くいかず男が独りになるというものだった。

蓮薫:作品のタイトルはこう書かれていた。

 


慎一郎:睡蓮と眠る。

 

神渡し

鴨居:さてと・・・。今日はここまでだ。

鴨居:会社に遅れてしまう。

鴨居:行ってくるよスクナ。

 


スクナ:ほう。ヌシ・・・。

スクナ:ワシの教えを無視して、まぁた何処に行くというのかえ?

 


鴨居:だから会社だっての・・・。

鴨居:耳はちゃあんと聞こえているんだから、何度も言わせるんじゃあない。

 


スクナ:ふふ。

スクナ:会社など、別にもう必要な事ではないじゃろ?

 


鴨居:じゃあ、どうやって生活しろって言うんだ?

鴨居:人間っていうは、人間社会で生きるって言うのは、金がないと生きていけないんだ。

鴨居:何かを食べるにしても、何処かに住むにしても、何かを着るにしてもな。

鴨居:衣食住をしっかり確保して安定したいから人間は会社に行き、

鴨居:仕事の報酬としてお金を貰って生活するんだよ。

 


スクナ:その質問。答えてやろう。

スクナ:人間の生活なんぞ、しなくてもよい。

スクナ:何かを食べる必要もない。着るものなんて気にするな。

スクナ:住む場所に関しては・・・先代の住居があるじゃろうて。

スクナ:人間の生活なんぞ、今のヌシにはただの記憶と習慣でしかない。

 


鴨居:・・・一応まだ人間だぞ。俺は。

 


スクナ:いんや。もう人間ではない。

スクナ:半分人間かもしれぬが、そんなモノ・・・。

スクナ:人間とは呼べんじゃろ?

 


鴨居:(溜息)

鴨居:一応、俺の今の状況を調べる為にさ。

鴨居:ネットで調べたら出てきてよ・・・。

 


スクナ:まぁ・・・じゃろうな。

 


鴨居:半人半神。

鴨居:・・・現人神(あらひとがみ)って言うんだろ。

 


スクナ:最近は物を調べるのも楽で良いのう。

スクナ:それで?

 


鴨居:人間のままの生活はできるなぁってな。

鴨居:ちょっと安心しただけさ。

鴨居:スクナ。お前の言う通りに今すぐ人間を辞めなくても済むって思っただけだ。

鴨居:・・・いってきます。

 


スクナ:・・・まったく。

スクナ:先代は何故あのような男を選んだか理解に苦しむ。

スクナ: 

スクナ: 

 :【間を開ける】

 : 

 : 

日向:あ。鴨居先生。おはようございます。

 


鴨居:おはようございます。日向さん。

鴨居:今日は問題なかったかい?

 


日向:えぇ。

日向:快適に眠れました。

 


鴨居:それは良かった。

 


日向:ふふ。

日向:先生のおまじないが効いたのかしら。

 


鴨居:え?

 


日向:だってアレ・・・おなじないでしょ?

日向:指先で・・・トントンって。背中を叩くやつ。

 


鴨居:あ・・・あはは・・・。

鴨居:他の人には言わないでくれると助かるな・・・。

鴨居:患者にセクハラしてると言われてしまうからね。

 


日向:ふふ・・・。

 


鴨居:なんだい?・・・その悪そうな顔は。

 


日向:あーなんだか急にカステラが食べたくなったなー!!

 


鴨居:・・・患者に他所のものを食べさせるのはあまり良くは・・・

鴨居:いや、そもそも特定の患者に何かをプレゼントするのは・・・・

 


日向:そうですか・・・残念です。

日向:口が滑ってしまいそうだったので、甘いもので滑り止めをと・・・

 


鴨居:わかった!!わかったから!!!

鴨居:・・・一日一切れ。午後3時のおやつにするくらいなら許そう・・・。

 


日向:ふふ。ありがとうございます。

日向:あ、駅前のお店のでお願いしますね。

 


鴨居:あぁ。駅前のカステラだな。

鴨居:なんとか用意しよう。

 


日向:やったー!!

日向:(大咳)

 


鴨居:日向さんっ!!

 


日向:だ、大丈夫・・・大丈夫です・・・。

日向:あはは・・・。調子に乗りすぎました・・。

 


鴨居:(安堵)

鴨居:・・・今は何ともありませんか?

 


日向:・・・えぇ。大丈夫です。

日向:じゃあ・・・診察・・・お願いします。

 


鴨居:あ・・・あぁ。わかった。

 


日向:・・・。先生。

 


鴨居:ん?

 


日向:私・・・。

日向:あと、どれくらい生きられるんでしょうか?

 


鴨居:・・・何を言っているんだい?

鴨居:キミはちゃんと手術が成功して、体力を回復するためにこっちの病院に移ったんじゃあないか。

 


日向:・・・えぇ。そう・・・でしたね。

 


鴨居:・・・さてと。

鴨居:まだ発作は起きるだろうから。ちゃんと安静にしていないとダメだよ。

鴨居:それじゃあ、お大事に。

 


日向:はい・・・先生。また・・。

日向:・・・・・・・・・・・・・・嘘つき。

日向: 

日向: 

 :【間を開ける】

 : 

 : 

スクナ:帰ったか。

スクナ:ヌシよ。ワシから一つ言いたいことがある。

 


鴨居:おいスクナ!!

鴨居:お前・・・神の御業はバレないって言っただろが!!

 


スクナ:・・・なんじゃ急に。

 


鴨居:・・・患者にばれた。

 


スクナ:何したんじゃ?

 


鴨居:身体の治療。

 


スクナ:ヌシが?成功したのか?

 


鴨居:ほんの少し治癒が出来るくらいなら俺にもできる。

 


スクナ:ほぅ・・・。

スクナ:万物の再生は、誰にも出来ることではないぞ。

 


鴨居:いや!そうじゃあなくて!!

鴨居:御業がバレたんだっての!!

 


スクナ:ヌシが治癒したと、そいつは解ったのか?

 


鴨居:・・・いや、背中に触れただけだって

 


スクナ:御業はバレてないじゃろ。

スクナ:はい。この話はしまいじゃ。

 


鴨居:いやいやいやいや!!!

鴨居:だから触っていることに気づいて・・・

 


スクナ:それは半分人間だからじゃろ。

 


鴨居:あー・・・マジか・・・。

鴨居:それに・・・神の御業ってやつも、大したことないな・・・。

 


スクナ:それは人間が望みすぎなんじゃよ。

スクナ:神なら、どんな事でも出来る。全知全能の力を持っている。

スクナ:だから神には何でもできる。とな。

 


鴨居:・・・ちがうのか?

 


スクナ:当たり前じゃ。

スクナ:雨を降らすのには、雨の神。

スクナ:田畑を実らせるには、豊穣の神がおる。

スクナ:全知全能の神なんぞ、一握りの神しかおらんのじゃ。

スクナ:それに、人間は殆ど自らの力で解決できるくらい成長したしのう。

スクナ:ワシらを必要としないくらいに。

 


鴨居:いや、神頼みなんて今でもしてるだろ。

 


スクナ:あぁ。来るのう。ワシらでも無理な願いを叶えて欲しいと願いに来る。

スクナ:誰かと恋仲になりたい。

スクナ:出世が欲しい、金が欲しい。

スクナ:病気を治して欲しい・・・なんてのう。

 


鴨居:・・・。

 


スクナ:いいか。

スクナ:何度でも言ってやろう。

スクナ:ワシらは全知全能ではない。

スクナ:例え、病を治せる力があったとしても、きっかけを与えてやる事しか出来ん。

スクナ:叶えれるのは・・・最後は自分次第ってことじゃ。

 


鴨居:神よりも、欲を持った人間のほうが優れてしまった・・・

鴨居:そういうことか。

 


スクナ:まぁ、娘の病はヌシが治すんじゃろ?

スクナ:神の御業を使わなくてものう。

 


鴨居:・・・ちょっとまて。

鴨居:俺は誰に対してこのチカラを使ったと言っていないんだが・・・。

 


スクナ:ふふ。

スクナ:そんなもの。ワシの千里眼をもってすればなんてことない。

 


鴨居:・・・神よりも人間のほうが優れているなんて・・・やっぱり嘘じゃあないか。

 


スクナ:ヌシも肉体を捨てればすぐにできるぞ?

 


鴨居:・・・肉体・・・か・・・。

鴨居:なぁスクナ。

 


スクナ:そんな質問をするな。

 


鴨居:まだしてないだろ。

 


スクナ:聞かぬともわかるわ・・・。

スクナ:ヌシの考えていることも、何をしようとしているのかもな。

 


鴨居:・・・。

 


スクナ:この話は終いじゃ。

スクナ:ワシはもう寝る。

 


鴨居:・・・そう・・・か。

鴨居:言わないって事は・・・出来るのか。

鴨居: 

鴨居: 

鴨居: 

 :【間を開ける】

 : 

 : 

日向:ねぇ、鴨居先生?

日向:・・・鴨居先生ー?

 


鴨居:・・・。

 


日向:鴨居先生!!

 


鴨居:うわっ・・・びっくりしたぁ・・・。

鴨居:どうかしたのかい?

 


日向:・・・呼んでも返事がなかったので、。

日向:考え事でもしてるのかなーっと。

 


鴨居:あ、あぁ・・ちょっとね。

 


日向:何考えてました?

 


鴨居:・・・秘密。

 


日向:えー・・・。

日向:・・・私の事ですか?

 


鴨居:え?ええ?

 


日向:だって鴨居先生。

日向:すぐ顔に出ますもん。

 


鴨居:そう・・・か。

 


日向:・・・私、そんなに悪いんですか?

 


鴨居:そんな事はないよ。

鴨居:今日は天気もいいから病院の近くなら出かけてもいいかなって思っただけだよ。

 


日向:・・・嘘つき。

 


鴨居:嘘じゃあないよ。

 


日向:じゃあ・・・私の病気が本当は悪くて、

日向:もし、死んだとしたら・・・先生。一緒に死んでくれます?

 


鴨居:それは・・

 


日向:・・・やっぱり。先生は嘘つきです。

 


鴨居:・・・わかった。

鴨居:もし、日向さんの体調が悪くなったとする。

鴨居:・・・その時は、責任をとるよ。

 


日向:責任って?

 


鴨居:俺が必ずキミを治す。

鴨居:例えどんな方法だとしても。

 


日向:・・・へぇ。

日向:鴨居先生ってさ・・・。

日向:たまに良く分からない顔、しますよね。

 


鴨居:分からない顔ってどういう事かな?

 


日向:嘘をついてるってすぐ顔にでるのに。

日向:たまに嘘だって分かる言葉が嘘だって顔にでないんです。

 


鴨居:えーっと・・・。

鴨居:よく・・・わからないな。

 


日向:だから分からない顔なんですって!

日向:ほら!!外連れてってくれるんですよね??

日向:早く行きましょ!!

 


鴨居:あ、あぁ・・。わかった。

鴨居: 

鴨居: 

 :【間を開ける】

 : 

 :

日向:んー・・・風が気持ちい・・・

日向:隣の神社までならいいですか?

 


鴨居:あぁ。いいよ。

 


日向:ふふ。やった♪

日向:そういえば・・・あの神社って夏祭りとかするんですか?

 


鴨居:いや、秋の祭りだな。

鴨居:夏祭りは・・・隣町でやるはずだよ。

 


日向:へぇ・・・。

日向:ねぇ、先生。夏祭りと秋祭りの違いって何か解ります?

 


鴨居:秋祭りは収穫を感謝する祭りで

鴨居:夏祭りは厄払い・・・。

鴨居:疫病退散の願う祭りだったと思ったけど。

 


日向:夏祭りって、他にも農作物を虫や台風みたいな妨げを予防するためにするみたいですよ。

 


鴨居:へぇ・・・。

鴨居:知らなかったな。

 


日向:私、神様とか信じるタイプなんで。

 


鴨居:じゃあ、この神社に祀っている神様は・・・誰か知っているかい?

 


日向:うーん・・・。

日向:秋祭りってことは、豊穣の神様だから・・・。

日向:きっといい神様ですよ。

 


鴨居:蛇だよ。蛇。

鴨居:だから良い神様ではないと思うよ。

 


日向:・・・蛇が神様なのに、夏祭りじゃあないんですか?

 


鴨居:・・・そういえばそうだな。

 


日向:きっと、他にも神様がいるんですよ。

日向:蛇は蛇でも、白蛇様でしょうし。きっと良い神様だと思います。

日向:そうじゃあなかったら、きっとこの町の祭りは夏祭りですよ。

 


鴨居:・・・夏祭りの神様って悪い神様なのか?

 


日向:所説ありますけど・・・

日向:夏祭りって秋祭りよりも盛大にやるところが多いんですよ。

日向:それは、神様に悪さして欲しくないからって言われています。

 


鴨居:・・・神様が・・悪さねぇ・・・。

 


日向:まぁ、本当かどうかはわかりませんけどね。

 


鴨居:・・・良い神と悪い神・・・。

 


日向:あ!!先生見てください!!

 


鴨居:え?

 


日向:白蛇がこっちを見てますよ!!

 


鴨居:なっ!?

 


日向:縁起がいいですねー!!

日向:これはお賽銭でもいれないと・・・

 


鴨居:そ、そろそろ帰ろうか!!

鴨居:身体が冷える前に!!ほら!!

 


日向:あ、ちょっとまってください!!

日向:せめて写真だけでもー!!!

 


スクナ:・・・あれが。例の娘子か。

スクナ: 

スクナ: 

 :【間を開ける】

 : 

 : 

鴨居:あー・・・いつもだったら社(やしろ)にいるってのに・・・

 


スクナ:ヌシの気にしている娘子がどんな顔かちゃんとみたくてのう。

 


鴨居:なっ!!

 


スクナ:どうじゃ?キュートじゃろ?

 


鴨居:お、おまえ・・・

鴨居:人になれたのか?

 


スクナ:数百年生きていたら、これくらいの芸当はできるわ。

スクナ:あと、何か言う事はないのか?

 


鴨居:なぜあそこにいた?

 


スクナ:・・・だからヌシが気にしている娘子がー!!

 


鴨居:いや、そうじゃあなくて・・

鴨居:社を出れたのか?

 


スクナ:誰が引きこもりじゃ

スクナ:やる気があれば普通に出れるわ・・・。

スクナ:他には聞かないのかえ?

スクナ:ほら、スラーっとしていて、足なんてまるでカモシカのよう・・・

 


鴨居:ってか千里眼でみてただろうが

 


スクナ:・・・ヌシ、絞め殺して丸のみにしてやろうか?

スクナ:(溜息)もういいわ。

スクナ:千里眼で見えたとしても、ちゃんと肉眼で見てみたいものなんじゃ。

スクナ:ヌシが考えてることもあるしのう。

 


鴨居:・・・それで、人に化けて何をするつもりだ?

 


スクナ:なぁに、ただ話しをするだけじゃ。

スクナ:娘子とな。

 


鴨居:話す必要がないだろ。

 


スクナ:いいや。話す必要がある。

スクナ:ヌシがしようとしている事を本気でやるのであればな。

 


鴨居:・・・俺はまだ話していないぞ

 


スクナ:話さずとも、わかるわ。

スクナ:・・・さぁて、部屋を教えてくれないかのう。

 


鴨居:言わなくても知ってるくせに

 


スクナ:まぁ、そこは聞くのが礼儀じゃろうが。

 


鴨居:・・・こっちだ。

 


スクナ:うむ。案内感謝する。

スクナ: 

スクナ: 

 :【間を開ける】

 : 

 : 

日向:あ、先生。

日向:・・・えっと。後ろの方は?

 


鴨居:あぁ。俺の知り合いで・・

 


スクナ:同居しております・・・鴨居スクナと申します。

 


日向:同居!?

日向:せ、先生!!たしか独身ですよね!?

 


鴨居:・・・頼むからへんな誤解をさせないでくれ・・・

 


スクナ:ふふ。良いではありませんか・・。

スクナ:私はただ本当のことを・・・

 


鴨居:一体なんの嫌がらせだよ!!

鴨居:あれか!?さっき褒めなかったからか!?その仕返しか!?

 


スクナ:ふふ。一体なんのことでしょうか?

 


鴨居:その口調はなんだよ!!

 


スクナ:少々揶揄いすぎましたかね?

スクナ:・・・古今東西、雄は今でも淑女を求めている阿呆よのう。

スクナ:では、ヌシよ。あの娘子と話をするので、席をはずせ。

 


鴨居:・・・。へんな事するなよ。

 


スクナ:なぁに。話すだけじゃ。

 


日向:あ、あの・・・。

 


スクナ:あぁ、すまなかったのう。

スクナ:奴・・・えーっと鴨居を揶揄う為に芝居をうたせてもらっただけじゃ。

スクナ:ヌシ。名前はなんという。

 


日向:日向・・・りんです。

 


スクナ:ふむふむ。

スクナ:良い名じゃ。日輪とはまるで神のような名じゃ。

 


日向:えっと・・・。

 


スクナ:なぁヌシよ。

スクナ:鴨居から何も聞いていないと思うが・・・

スクナ:奴はちょっと特別な力をもっていてのう。

 


日向:特別な・・ちから?

 


スクナ:ふむ。10年ぐらい経つかのう・・・。

スクナ:奴がまだ普通の人間だった時。

スクナ:ある神社で一人の男を助けたのじゃ。

スクナ:その男こそ、この神社の主祭神(しゅさいじん)だったのじゃ。

 


日向:ちょ、ちょっと待ってください!!

日向:神様?え?どういうことですか?

 


スクナ:非現実的だと言いたそうじゃな。

スクナ:まぁ、先代の主祭神とは長い付き合いだったのじゃが・・・

スクナ:夫婦の契りを交わした相手柄でありながら、何を考えておるか今でもさっぱりわからぬ。

スクナ:何を考えたのか、鴨居に礼だと言い、力を与えた。

スクナ:我々と同じ力。神の力を授けたのじゃ。

 


日向:・・・神の・・・ちから?

 


スクナ:そうじゃ。

スクナ:そうして、鴨居孝彦(かもいたかひこ)という人間はこの土地に祀られる神になったのじゃ。

 


日向:で、でも・・・鴨居先生は人間・・・ですよね?

 


スクナ:人間?奴は人間という肉の器を持った神じゃよ。

スクナ:現人神(あらひとがみ)という存在じゃ。

スクナ:神無月には神達と共に宴を楽しむくらい神をやっているぞ。

 


日向:・・・どうして。

日向:どうして、その話を私にしたんですか?

 


スクナ:ふむ。

スクナ:まったくもって気になる質問じゃろうな。

スクナ:それは・・・ヌシの身体に関係がある。

 


日向:私の・・・身体?

 


スクナ:ヌシ、このままだとその肉体は半年と待たずに黄泉に行ってしまうじゃろう。

 


日向:っっ・・・!!

 


スクナ:まぁ安心せえ。

スクナ:ヌシはまだ黄泉には行かぬよ。

 


日向:何が・・・何が安心しろよ!!

日向:半年以内に死んでしまうって言われて安心できるわけないじゃない!!

 


スクナ:だったら何故ワシがヌシと話をする必要がある?

 


日向:知らないわよ!!!

日向:誰だかわからないけど、帰って!!帰ってよ!!

 


スクナ:・・・ギャーギャー騒ぐな。人間。

スクナ:今から大事な話をするんじゃ。聞く耳をもて。

 


日向:だから帰ってってば!!

日向:・・・っ!!

 


スクナ:・・・ようやっと大人しくなったか。

 


日向:・・・・!!

 


スクナ:どうした?今度はだんまりか?

スクナ:ワシの顔に何かついておるのかのう・・・?

 


日向:ば、化け物・・・

 


スクナ:化け物とは心外じゃなあ。

スクナ:ただの白蛇じゃろ?

スクナ:ほんの少し大きいだけの、ただの喋る蛇じゃ。

 


日向:誰か!!たすけっっっ!!

日向:(尻尾で身体を締め付けられ、口を塞がれる)

 


スクナ:騒いでも無駄じゃ。

スクナ:では、ヌシに選ばせてやろう。

スクナ:絞め殺されたいか?牙で喉元を掻っ切ってやろうか?

スクナ:それとも・・・己の病で逝きたいか?

 


日向:んんっ・・・・・・

 


スクナ:おぉ。すまなかったな。どれ・・・口だけは開けてやろう。

スクナ:じゃが、助けを求めたらヌシを殺す。よいな?

 


日向:んん・・・

 


スクナ:・・・では。答えを聞こうかの。

 


日向:・・・たくない・・

 


スクナ:なんじゃ?もう一度言ってみい。

 


日向:しに・・・たくない・・・

日向:私は・・・まだ死にたくない・・・!!

 


スクナ:・・・最初からそう言えばよかったのじゃ。

スクナ:ほれ、神からありがたい言葉を聞くがよい。

 


日向:・・・。

 


スクナ:ヌシが黄泉に行かぬ方法がある。

スクナ:肉体もそのまま現世に残る。

 


日向:・・・本当?

 


スクナ:ワシは本当の事しか言わぬ。

スクナ:それなりの覚悟が必要じゃが・・・。

スクナ:まぁ、それは知らぬ方がよいな。

スクナ:では・・・鴨居を連れて三人で話すとするかのう。

 


日向:・・・覚悟?

日向: 

日向: 

 :【間を開ける

 : 

 : 

スクナ:・・・という訳で。

スクナ:全部話してしもうた。

 


鴨居:す・・・スクナぁぁぁ・・・!!

鴨居:お前・・・なんて事を・・!!!

 


スクナ:ワシは悪くないわい。

スクナ:ヌシがやろうとしている事に比べたら・・・

 


日向:せ、先生・・・私に一体何をするつもりなんですか・・・?

 


鴨居:・・・(溜息)

鴨居:仕方ない。スクナが話してしまったのなら・・・

鴨居:話すしかないな。

鴨居:・・・キミを僕と同じ状態にする。

 


日向:・・・は?

日向:え?ちょっと意味がわからない・・・。

 


鴨居:スクナから聞いたんだろ?

鴨居:俺が現人神。半分人間で、半分神様だって。

 


日向:いや、それは聞いたけど・・・。

日向:頭が全然追いついて来ないのに、また意味の分からない事を・・・

 


鴨居:簡単さ。

鴨居:神様になるんだ。

 


日向:はいそうですかーって言えるわけないんじゃあないですか!!

日向:先生!!頭大丈夫なんですか!?

 


鴨居:悪いのはキミの病気のほうだ!!

鴨居:それを治す事は、俺にはできない。

鴨居:いや、今の医療技術ではできないんだ。

 


日向:・・・。

 


鴨居:だが、キミが神になれば身体は死ぬことになるかもしれないが、

鴨居:精神は生き続けられる。

 


日向:・・・すみません。先生。

日向:ほんっっっとうに。頭大丈夫んですか?

 


鴨居:俺は大真面目で話している。

 


日向:・・・バカバカしい。

日向:確かに、スクナさんが大きな蛇になった時はびっくりしました。

日向:本当に神様っているんだって本当に思いました。

日向:・・・ですが、私を神様にするって・・・それ本気でいってるんですか?

 


スクナ:普通はそう思うじゃろうな。

 


日向:それで?

日向:私が仮に神様になったとして、私は今後どう生きて行けばいいんですか?

 


鴨居:簡単だ。

鴨居:この土地の為に生き続ければいい。

 


日向:また意味の分からないことを・・・!!

日向:先生・・・アナタ、馬鹿なんじゃあないですか!?

 


鴨居:馬鹿と言われてもかまわない!!

鴨居:日向さん!!キミを助ける為なら・・・

鴨居:・・・たとえ、どんな方法を使ったとしても。

 


日向:・・・(溜息)

日向:あの言葉はそういう事だったんですか・・・。

 


鴨居:そうだ。

鴨居:・・・神に、なってくれるね?

 


日向:先生・・・嫌です。

 


鴨居:なんでだ!?

鴨居:責任をとるって言ったじゃあないか!!

 


日向:そういう責任の取り方を望んだわけじゃあない!!

日向:ちゃんと考えろ馬鹿!!

 


鴨居:馬鹿とはなんだ!!

鴨居:これでも一応、神だぞ!!

 


日向:さっきは馬鹿って言われてもかまわないとか言ってたくせに!!

日向:だいたい先生は・・・(大咳)

 


鴨居:日向さん!!

 


日向:(呼吸困難)

 


鴨居:大変だ・・・今すぐ治療室に・・・いや、間に合わない・・。

鴨居:・・・スクナ!!

 


スクナ:同意を得なくていいのかのう。

 


鴨居:俺の時だってそうだったじゃあないか!!

鴨居:早く!!

 


スクナ:わかったわかった。

スクナ:今初めてやるから落ち着かぬか。

スクナ:・・・まったく、別れの言葉もゆっくりさせて貰えぬのか。

スクナ:さらばじゃ。鴨居孝彦よ。

スクナ: 

スクナ: 

スクナ: 

 :【間を開ける】

 : 

 : 

 : 

日向:・・・こ、ここは?

 


スクナ:目が覚めたようじゃな。

 


日向:うわっ!!

 


スクナ:そんな驚かなくてもよかろう。

スクナ:この姿を見るのは二度目であろうに。

 


日向:あ・・・いや・・・スクナさんか。

日向:ごめんなさい。

 


スクナ:身体の調子はどうじゃ?

 


日向:んー・・・ちょっと寝たら良くなったみたい。

日向:身体が軽くなった感じかしら・・・。

 


スクナ:それは良かった。

スクナ:ちゃんと儀式は成功したようじゃ。

 


日向:・・・はい?

 


スクナ:だから儀式は成功・・・

 


日向:儀式ってなによ!!!

 


スクナ:儀式は儀式じゃ。

スクナ:ヌシの身体に神を移した。

 


日向:・・・なんて事を・・・

日向:スクナさん・・・ちょっといい?

 


スクナ:なんじゃ?

 


日向:先生。今何処にいます?

日向:殴って元の身体に戻してもらいます。

 


スクナ:無理じゃ。

 


日向:だったら先生を殴ることだけやりますから!!

日向:先生はどこ!?

 


スクナ:だから無理なんじゃ。

スクナ:鴨居孝彦という存在はもうすでにいない。

 


日向:・・・え?

 


スクナ:神渡しと言ってな。

スクナ:神が人に力を授けることができるんじゃよ。

スクナ:授かった神は現世にとどまる事はできぬ。

スクナ:それどころか、人間の身体で神渡しを行ったんじゃ。

スクナ:身体はもちろん。存在そのものが消えてしまったはずじゃ。

 


日向:・・・存在そのもの?

 


スクナ:この世にいたという事が消えてしまった。

スクナ:つまり、ワシとヌシ以外の者は皆、鴨居孝彦を忘れてしまったんじゃ。

 


日向:・・・そんな。

 


スクナ:仕方がない事じゃ。ヌシが悲しむ必要はない。

スクナ:こうなる定めだったのじゃ。

 


日向:どうしてよ・・・。どうして・・・。

 


スクナ:ワシは止めた。

スクナ:いや、止めようとした。

スクナ:じゃがな。ヌシよ。

スクナ:奴は馬鹿じゃが約束は守る男じゃった。

スクナ:先代・・・ワシの旦那様もそこを気に入っておられた。

 


日向:・・・たとえどんな方法でも・・・

 


スクナ:少し席を外すぞ。

スクナ:ワシもやらねばならぬことがあるのでな。

 


日向:・・・。

 


スクナ:・・・ヌシ様よ。

スクナ:何故、神渡しを鴨居に授けたのでしょうか?

スクナ:ヌシ様にも何か考えがあるのでしょうが・・・このスクナの知恵では何もわかりませぬ。

スクナ:・・・ヌシ様。

スクナ:あの小娘が、この地を。ヌシ様が創ったこの地を救う事ができるのでしょうか・・・

スクナ:・・・オオクニヌシ様。

 

 

 

スカーズ3

スカーズ3

 


ロバート・ベック

ベンジャミン・スカー

イーサン・ウォルヴィッツ

ミシェル・コールマン

シェリー・メイソン

 

 

 

 


イーサン:(溜息)まさか3週間も拘束されるとは・・・。

イーサン:もう少し早く来ることは出来なかったのか?

 


ベンジャミン:たかが3週間くらいでママのシチューが恋しくなってしまったのかな?

ベンジャミン:我々も色々と準備があったのでね。

 


イーサン:準備とは?ロバート答えろ。

 


ロバート:・・・ノーコメントで。

 


イーサン:ボスの命令だ。答えろ。

 


ロバート:・・・色々は色々なんだよ。

ロバート:いいから察してくれ。

 


ベンジャミン:ふふ。ちょっとしたゲームをしたんだよ。

ベンジャミン:おしゃべりなロビィの口にチャックをするって遊びでね。

 


イーサン:・・・エリザベスはどうした?

 


ベンジャミン:それも答えられない。

ベンジャミン:ポーカーで勝つ秘訣はなんだと思う?

 


イーサン:私は賭け事はやらん。

イーサン:早く答えろ。

 


ベンジャミン:(溜息)本当につまらない人生を歩んでいるのだなキミは・・・。

ベンジャミン:今度教えてあげよう。

 


イーサン:いらん!!

イーサン:早く答えろ!!

 


ベンジャミン:ふふ。本当にせっかちな男だ。

ベンジャミン:それでは女の子にもモテないぞ?

 


イーサン:・・・ロバート。答えろ。

 


ロバート:いや、だから話せないんだって・・・

 


イーサン:よし。わかった。

イーサン:ロバート・ベック。お前の給料を減給に・・・

 


ロバート:流石にそれは困る!!

ロバート:ポーカーに勝つ秘訣だろ!?それくらい教えてもいいだろうが!!

 


ベンジャミン:ふふ。仕方ない。教えてあげよう。

ベンジャミン:ポーカーで勝つ秘訣は・・・・

ベンジャミン:カードを簡単にバラさないことさ。

 


イーサン:・・・どういうことだ?

 


ロバート:強いカードでも弱いカードでも・・・

ロバート:何を持っているか教えちゃいけないって事だよ。

 


イーサン:・・・当たり前じゃあないか。

 


ロバート:別にFBIとポーカーをやりに来たわけじゃあねぇだろうが・・・。

ロバート:交渉するにも事件をあっさり解決するのにも。手の内を明かす訳にはいけないってことだっつーの・・・。

 


イーサン:・・・最初からそういえばいいだろうが。

 


ロバート:・・・(溜息)

ロバート:本当に疲れるんだけど。こいつ。

 


ベンジャミン:では、おしゃべりロビィは私にチップを払いたまえ。

 


ロバート:はぁ!?

ロバート:話していいっていったじゃあねぇか!!

 


ベンジャミン:私は自分から教えただけだ。

ベンジャミン:キミは勝手に私の話の意図を説明してしまった。

ベンジャミン:これで君のあだ名はおしゃべりロビィに決定し、今日の私のランチを買ってきてもらう事になったな。

 


ロバート:あー・・ファック・・・!!

ロバート:

ロバート:

ロバート:

 :【間を開ける】

 :

 : 

 :

ミシェル:・・・アナタがベンジャミン・スカー?

 


ベンジャミン:えぇ。お初にお目にかかります。ミセスコールマン。

ベンジャミン:アナタのお話はニューヨーク市警にも噂になっておりますよ。

 


ミシェル:へぇ。一体どんな噂かしら。

 


ベンジャミン:FBI捜査官の中で最も美しい捜査官でありながら、

ベンジャミン:・・・もっとも恐ろしい捜査官だと。

ベンジャミン:ふむ。どうやら噂の一つは本当だったようだ。

 


ミシェル:ふふ。

ミシェル:それは後者のほう・・・かしらね。

 


ベンジャミン:いやいや、とんでもない!!

ベンジャミン:アナタのような美しい女性と話すのでしたら・・・

ベンジャミン:ディナーの席を用意するべきでした。

 


ミシェル:あら、今からでも予約をとろうかしら?

 


ベンジャミン:ははは。

ベンジャミン:それはそれで、隣の彼女が困ってしまうのでは?

 


ミシェル:え?あぁ・・気にしなくていいのよ。

ミシェル:新米捜査官の御守りをしているだけ。

 


シェリー:・・・シェリー・メイソンです。

 


ベンジャミン:これはこれは。ご挨拶が遅れてしまいましたな。

ベンジャミン:・・・ベンジャミンだ。手の甲にキスをしてもいいかな?お嬢さん。

 


シェリー:一応こんな身なりですが、FBI捜査官です。

シェリー:口の利き方には気を付けなさい。ベンジャミン・スカー。

 


ベンジャミン:これは失礼した。

ベンジャミン:だが、私のような男が花束を二つも持っていくのは少々目立ってしまう。

ベンジャミン:・・・男を一人同行させてもよろしいかな?

 


ミシェル:ディナーの件は二人っきりだと思っていたのに。

 


ベンジャミン:ではデートの誘いはまた今度ということで・・・。

ベンジャミン:本題に入ろう。

ベンジャミン:イーサンをニューヨーク市警に戻してくれるのであれば、手紙の件の詳細を伝えよう。

 


ミシェル:・・・手紙の件?

ミシェル:もしかして・・・これの事かしら?

 


ベンジャミン:ふふ。

ベンジャミン:中身には読んだら燃やせと書いてなかったかな?

 


ミシェル:アナタの指紋と筆跡を燃やして捨てろ?

ミシェル:そんなのありえないわ。

 


ベンジャミン:・・・よかろう。

ベンジャミン:手紙の内容はこう書かれていたはずだ。

ベンジャミン:「現在ニューヨークに潜伏している連続レイプ殺人犯の情報をわたす」・・・と。

 


ミシェル:えぇ。・・・だけど。

ミシェル:一体何のことかさっぱりわからないわね。

 


ベンジャミン:君如きが。いや、FBI如きが、

ベンジャミン:私に隠し事できると思っているのかい?

ベンジャミン:今現在、君たちが追っている犯人の情報を教え、さらには我々が手伝ってやると言っているのだよ。

 


ミシェル:・・・ニューヨーク市警如きが?

ミシェル:ふふ・・ふふふ・・・(大笑い)

ミシェル:ふざけるのもいい加減にしなさい。

ミシェル:アナタを今すぐ牢屋に叩きこんでもいいのよ??

 


ベンジャミン:・・・ふふ。本性を出したか。女狐が。

 


ミシェル:それで、どこまで情報を手に入れているの?

ミシェル:情報提示だけでもイーサン・ウォルヴィッツニューヨーク市警に帰してあげてもいいわよ。

 


ベンジャミン:ふふ。

ベンジャミン:私が知っている情報は・・・犯人の名前と住所。

ベンジャミン:あとは所持している武器、資産、家族構成。あとは女の趣味くらいかな。

 


ミシェル:・・・どこまでふざけるつもり?

 


ベンジャミン:いんや。ふざけてなどいないさ。

ベンジャミン:ただ、今何処にいるかは分からないだ。

ベンジャミン:犯人はただの凶悪犯ではない。

ベンジャミン:賢く、やっかいな凶悪犯なのだよ。

 


シェリー:それは・・・いったいどういう・・・

 


ミシェル:メイソン捜査官。口を閉じなさい。

 


シェリー:す、すみません・・。

 


ミシェル:・・・。

ミシェル:ミスター・スカー。そこまでの情報を持ちながら、何故ニューヨーク市警は逮捕しないのですか?

 


ベンジャミン:だから言っているだろう?

ベンジャミン:今何処にいるのかが分からないと。

 


ミシェル:・・・確かに我々が、全力で捜査している事件はあります。

ミシェル:ですが。こっちもそれくらいの情報は・・・

 


ベンジャミン:持っていないだろ?

ベンジャミン:私がFBIのコンピューターシステムをハッキングしなくても今のはわかる。

ベンジャミン:・・・ミシェル・コールマン。

ベンジャミン:私とポーカーなんてしたら・・・キミ。一文無しになってしまうね。

 


ミシェル:・・・いいでしょう。

ミシェル:イーサン・ウォルヴィッツを返しましょう。

ミシェル:その代わり・・・

 


ベンジャミン:あー。もちろん情報は渡す。

ベンジャミン:それで、私に貸しをつくりたいとは思わないかな?

 


ミシェル:・・・貸し?

 


ベンジャミン:私の強力な部下を一名お貸ししよう。

ベンジャミン:きっと役に立つはずだ。

 


ミシェル:・・・名前は?

 


ベンジャミン:ロバート・ベック。

ベンジャミン:私も君には貸しをつくりたい。

ベンジャミン:必ず犯人を見つけるだろう。

 


ミシェル:わかったわ。貸しを作らせてあげる。

ミシェル:では・・・私もアナタに部下を一人貸しましょう。

ミシェル:・・・シェリー。

 


シェリー:はい。

 


ミシェル:・・・。なにかあったら射殺してかまわないわ、

 


シェリー:・・・わかりました

シェリー:

シェリー:

シェリー:

 :【間を開ける】

 :

 :

ベンジャミン:さて・・・では帰ろうかイーサン。

 


イーサン:・・・一体何をした?

 


ベンジャミン:何をした・・・いや、私はキミを迎えにきただけだよ?

ベンジャミン:FBIのお姉さんに、優しくお願いをしたらキミを返してくれると言われたから、今キミを車に乗せようとしている。

 


イーサン:お願い?

イーサン:脅迫の間違いじゃあないのか?

 


ベンジャミン:とんでもない!

ベンジャミン:私はフェアにお願い事をしただけであって・・

 


イーサン:では何故ロバートがいない?

 


ベンジャミン:それは私の気持ちだよ。

ベンジャミン:彼等が困っている案件に協力するためにロビィをここに置いた。それだけの話だ。

 


イーサン:・・・ベンジャミン。正直に答えてくれ。

イーサン:私はボスだ。アンタはそうは思ってはいないと思うが・・・

 


ベンジャミン:わかっている。

ベンジャミン:嘘などついていないさ。

ベンジャミン:ところでイーサン。ビジネスをするにあたって最も重要な事は何だと思う?

 


イーサン:・・・信頼だ。

 


ベンジャミン:あぁ確かに重要だ。

ベンジャミン:信用なしではビジネスは成り立たない。

ベンジャミン:だが、最もではない。

ベンジャミン:ビジネスにおいて、もっとも重要なのは・・・恩を売ることだ。

 


イーサン:何が言いたいんだ?

 


ベンジャミン:私はボスであるキミを助けることで恩を売り、

ベンジャミン:FBIにはその恩をすぐに返すことができた。

ベンジャミン:いや、むしろ恩を売ったのだよ。

ベンジャミン:・・・これでFBIは私を捕まえるよりも協力を求めることになった。

 


イーサン:・・・うるさいハエを片付けた・・・ということか。

 


ベンジャミン:その通り。

ベンジャミン:ついでに最新の情報も手に入れられそうだ。

 


シェリー:・・・失礼します。

シェリー:私も同行をさせていただけないでしょうか?

 


ベンジャミン:あぁもちろんだシェリー。

ベンジャミン:運転を頼んでもいいかな?

 


シェリー:・・・はい。

 


イーサン:・・・どういうことだ?

 


ベンジャミン:簡単なことだ。

ベンジャミン:私はロビィをFBIに協力させて、

ベンジャミン:彼等はシェリーを監視につけた。それだけのことさ。

 


イーサン:いや・・・だから・・・

 


ベンジャミン:さぁ、ニューヨーク市警まで運転してくれたまえ。

ベンジャミン:あぁ、忘れていた。

ベンジャミン:3ブロック離れたところでサンドウィッチと珈琲を買わせてくれ。

 


シェリー:・・・まっすぐニューヨーク市警にむかいます。

 


ベンジャミン:ふふ。残念だ。

ベンジャミン:

ベンジャミン:

ベンジャミン:

 :【間を開ける】

 :

 :

 :

ミシェル:アナタがロバート・ベック?

ミシェル:ミシェル・コールマンよ。

 


ロバート:はい。よろしくお願いします。

 


ミシェル:あら、緊張してるのかしら?

ミシェル:コーヒーでもいかが?

 


ロバート:え?あ。はい・・・

ロバート:ありがとうございます。

 


ミシェル:ところで・・・。

ミシェル:ベンジャミン・スカーはアナタが協力してくれると言っていたのだけど・・・

ミシェル:情報を彼から預かったの?

 


ロバート:このUSBメモリーに入ってます。

 


ミシェル:そう・・・。

ミシェル:じゃあそのUSBメモリーはこっちで預かるから、アナタは帰っていいわよ。

 


ロバート:はぁ?

ロバート:それは・・・どういうことだよ・・・

 


ミシェル:ニューヨーク市警がどう事件を解決しているかはわからないけど・・・

ミシェル:FBIは優秀なエージェントたちがいるし、チームで事件を解決しようとしているの。

ミシェル:いきなりニューヨークのお巡りさんが私の部署に入ったところで・・・事件なんて解決しないわ。

 


ロバート:ちょっと待ってくれよ・・・。

ロバート:・・・アンタ。マジでFBIだけで解決できると思っているのか?

 


ミシェル:えぇ。もちろん。

 


ロバート:・・・こんな簡単な情報も手に入らなかったのにか?

 


ミシェル:・・・へぇ。それはどういうことかしら?

 


ロバート:犯人を特定したのは、おっさんじゃあない。

ロバート:俺だ。

 


ミシェル:じゃあ、一体犯人はだれ?

 


ロバート:犯人の名前はジェイク・スポット。

ロバート:コロラド州出身で先月ニューヨークに引っ越してきた。

ロバート:血液型はB。所持しているだろう武器はスタンガンとサバイバルナイフ。あと護身用に銃。

ロバート:・・・他に必要な情報は?

 


ミシェル:ふふ。アナタの上司からは家族構成と女の趣味を知っていると言っていたわよ。

 


ロバート:・・・それ事件に必要?

 


ミシェル:じゃあ血液型は必要だった?

 


ロバート:アンタ・・・マジで特殊捜査官?

ロバート:路地に付着していた血痕のこと・・・なぜ知らないんだよ。

 


ミシェル:・・・やはりFBIにハッキング・・・

 


ロバート:ちげぇよ・・・。

ロバート:ニュースで言ってたぜ?

ロバート:マスコミのほうが情報握ってんじゃあないのか?

 


ミシェル:・・・わかったわ。

ミシェル:ではチームへの参加を許可するわ。

ミシェル:・・・来なさい。

 


ロバート:・・・(溜息)

ロバート:これが憧れのFBIか・・・。

ロバート:

ロバート:

ロバート:

 :【間を開ける】

 :

 :

 :

ミシェル:さてと・・・ここがアナタのオフィスよ。

 


ロバート:・・・個室とはありがたいね。

ロバート:それで?俺は何をすればいい?

ロバート:資料の整理か?それとも掃除が先か?

 


ミシェル:いいえ。

ミシェル:あそこにモニターがあるでしょ?

ミシェル:・・・見学よ。

 


ロバート:ははは。そうか見学か・・・。

ロバート:ふざけんじゃあねえぞ!!

ロバート:俺の能力は見せただろ!?

ロバート:何故倉庫になんて押し込めるんだ!!

 


ミシェル:簡単な話よ。

ミシェル:アナタはFBIではなく、ニューヨーク市警だからよ。

ミシェル:別に捜査に協力するなとは言っていないわ。

ミシェル:チームに隠れて私にわかった事を教えてくれればいい。それだけの事よ。

 


ロバート:手柄を独り占めってか?

ロバート:ファック・・・くそったれだ!!

 


ミシェル:何とでもいいなさい。

ミシェル:事件を解決できたら・・・チームの仲間入りも考えてあげてもいいわ。

 


ロバート:・・・あー。わかったよ。

ロバート:どうせアンタも俺を利用するだけ利用して、捨てる気なんだろ?

ロバート:・・・やってやるよ。

 


ミシェル:ふふ。

ミシェル:ちゃんと考えてあげるから安心しなさい。

 


ロバート:その「考える」って言葉をやめろ。

ロバート:考えた結果、FBIに相応しくないって言うつもりなんだからな。

 


ミシェル:言葉の意味を考えるのは勝手にしなさい。

ミシェル:それで、アナタはどうやって犯人の居場所を見つけてくれるのかしら?

 


ロバート:とりあえず・・・資料とニューヨーク中の防犯カメラを見せてくれ。

ロバート:ニュースの情報だけじゃあ分からないこともある。

 


ミシェル:・・・この部屋に全てあるわ。

 


ロバート:・・・他のFBIの連中は遊んでるのか?

 


ミシェル:すべてデータ化されているの。

ミシェル:だけど、アナタにはパソコンがないからここにある資料をみせてあげる。

 


ロバート:・・・そうですかっと・・・。

ロバート:それじゃあ、後はこっちでやるから30分後に此処に来てくれ。

 


ミシェル:30分後?

ミシェル:そんな時間で居場所がわかるの?

 


ロバート:珈琲も持ってきてくれると助かる。

 


ミシェル:・・・わかったわ。

ミシェル:部下に行かせましょう。

 


ロバート:・・・そうしてくれ。

ロバート:そしたら、その部下が手柄を横取りになるけどな。

 


ミシェル:・・・。

ミシェル:そういう陰口は聞こえないところで言って欲しいものだわ。

 


ロバート:すまなかったな。地獄耳さん。

ロバート:

ロバート:

ロバート:

 :【間を開ける】

 :

 :

 :

ベンジャミン:さてさて・・・ここに取り出したるわー・・・

ベンジャミン:普通のハンカチーフ!!

 


シェリー:・・・私がアナタと遊ぶとお思いですか?

 


ベンジャミン:キミは私の監視役。故に私から目を離す訳にはいかない。

ベンジャミン:・・・つまり遊び相手にはちょうどいい相手という訳だ。

 


シェリー:・・・くだらない。

 


ベンジャミン:くだらない?

ベンジャミン:キミは新米捜査官だと聞いたが・・・。

ベンジャミン:私の監視役になれるという事がどれだけ凄い事なのか分からないようだね。

 


シェリー:えぇ。もちろんわかっていますよ。

シェリー:腕利きの情報屋で、アメリカの表から裏、全てを知り尽くした男。

シェリー:そんな悪党の中のVIPを監視できるんですから、光栄ですよね?

 


ベンジャミン:ふふ。

ベンジャミン:VIPってところは気に入ったが、一つ間違いがある。

ベンジャミン:私はアメリカの全てを知っている訳ではない。

ベンジャミン:知らない事だってたくさんある。

 


シェリー:例えば・・・どんな事ですか?

 


ベンジャミン:それは・・・秘密だ。

 


シェリー:秘密・・・ですか。

 


ベンジャミン:あぁ。秘密だ。

 


シェリー:・・・ベンジャミン・スカー。質問しても?

 


ベンジャミン:あぁ、かまわないよ。

ベンジャミン:あと私の事はファーストネームで呼んでくれたまえ。

 


シェリー:ではベンジャミン。

シェリー:・・・何故ミスター・ウォルヴィッツの口をテープでふさいでいるのですか?

 


イーサン:(口を塞がれている)んー!!

 


ベンジャミン:ふふ。

ベンジャミン:話を面白くするために口を閉じていてもらっているんだ。

ベンジャミン:その方が・・・イーサンにとって面白いことになるからね。

 


イーサン:んー!!!

イーサン:

イーサン:

イーサン:

 :【間を開ける】

 :

 :

 :

ミシェル:・・・さぁ、30分経ったわよ。

 


ロバート:珈琲は?

 


ミシェル:まずは解ったことを教えなさい。

 


ロバート:はいはい。珈琲もくれないわけね。

ロバート:・・・此処だよ。

 


ミシェル:・・・クイーンズ?

ミシェル:なんでこんなところに・・・

 


ロバート:防犯カメラをみたから。

 


ミシェル:ニューヨークにある防犯カメラが一体幾つ存在していると思っているのよ

ミシェル:いいから教えなさい。

 


ロバート:・・・犯人イコールダウンタウンにいるって考え方がまず古い。

ロバート:それにクイーンズにはジェイクはよく遊びに行く。

ロバート:サッカースタジアムがあるからね。

ロバート:隠れられる場所も多数ある。あとは居そうなところの防犯カメラを探せば・・・ヒットするってわけだよ。

 


ミシェル:・・・そう。

ミシェル:よくやったわ。

 


ロバート:さて。では犯人の居場所も特定したところで・・・

ロバート:FBIに入れさせてくれるか考えてくれたんだろ?

ロバート:教えてくれよ。俺はアンタたちとチームは組めるのかい?

 


ミシェル:・・・本当なら。頭を下げてでも来てもらいたいわ。

ミシェル:残念だわ。

 


ロバート:・・・。見たのか、俺の情報を。

 


ミシェル:・・・えぇ。

ミシェル:ベンジャミン・スカーの部下だっていうから・・・

ミシェル:アナタの犯罪経歴を見たわ。

 


ロバート:・・・犯罪は犯していないはずだけどね。

 


ミシェル:アナタの父親に問題があるわ。

 


ロバート:・・・レイプ殺人の犯人だったからな。

 


ミシェル:マイケル・ベック。

ミシェル:殺害された人数は5人。

ミシェル:被害者の数は・・・

 


ロバート:20人。

ロバート:その中に、俺が含まれている。

 


ミシェル:FBIは親族に犯罪者がいる場合、捜査官にはなれない規則よ。

ミシェル:だけど、アナタの能力は私も欲しい。

 


ロバート:・・・すまん。何を言っているんだ?

ロバート:さっき残念って・・・

 


ミシェル:えぇ。捜査官にはなれない。

ミシェル:だけど、私の部下として雇いたいの。

ミシェル:なんなら詐称して捜査官として潜り込ませることもできるわ。

 


ロバート:詐称ね・・。

 


ミシェル:聞こえは悪いかもしれないけど、

ミシェル:給料も上がるわ。

ミシェル:引き抜かれてみない?

 


ロバート:・・・ふふ。ふははっ!!

ロバート:(大笑い)

 


ミシェル:・・・答えはイエスでいいの?

 


ロバート:ははは・・・すまない。

ロバート:おっさんの言った通りの展開になっちまったんでな。

 


ミシェル:ベンジャミンの?

 


ロバート:あぁ。

ロバート:しかも俺がそのクソみたいな提案に乗るとまで読みやがった。

ロバート:サイキックかよあのおっさん!!

 


ミシェル:それなら・・・

 


ロバート:たしかに俺の希望通りの提案だが、

ロバート:あのおっさんに恩は売れないな。

ロバート:・・・俺は別のやり方で捜査官になってやる。

 


ミシェル:・・そんなのできる訳がないわ。

 


ロバート:いんや、アンタは俺を「傷物」だと思ったからこの提案をしたんだ。

ロバート:「傷物」の俺がFBI捜査官になる為の近道だ。

 


ミシェル:・・・じゃあ、アナタはどうやって目指すと言うの?

 


ロバート:捜査官を目指すのをあきらめて、

ロバート:FBIの犯罪コンサルタントでも目指すとするかね。

 


ミシェル:なれるわけがないわ。

ミシェル:実績もないニューヨーク市警のお巡りさんをコンサルタントになんて・・・

 


ロバート:実績なんて簡単にとれる。

ロバート:・・・俺は選ばれるよりも、選ぶほうが好きなんだ。

 


ミシェル:・・・そう。

ミシェル:勝手にしなさい。

 


ロバート:あぁ。勝手にさせてもらうよ。

ロバート:それと・・・おっさんから手紙を預かってる。ほらよ。

 


ミシェル:・・・これは?

 


ロバート:アンタが俺を引き抜こうとしたら読ませろってよ。

ロバート:じゃあな。

 


ミシェル:・・・。そう。

ミシェル:

ミシェル:

ミシェル:

 :【間を開ける】

 :

 :

 :

ベンジャミン:では、そろそろ口のテープを剥がしてやろう。

 


イーサン:っ!

イーサン:・・・まったく・・・あれはどういう事なんだベンジャミン!!

 


ベンジャミン:ふふ。

ベンジャミン:あれ・・とは一体何の事かな。

 


イーサン:とぼけるんじゃあない。

イーサン:なぜ、FBI捜査官にエリザベスが潜伏しているんだ!!

 


ベンジャミン:んー?

ベンジャミン:エリザベス?彼女はリズなんかではない。

ベンジャミン:シェリー捜査官だよ。

ベンジャミン:最近入ったらしいがね。

 


イーサン:・・・エリザベスを潜伏させたということは・・・。

イーサン:FBIから何か情報を欲したということか?

 


ベンジャミン:あんなマヌケの奴らから得られる情報なんて小瓶に入ったジャム程度のものだよ。

ベンジャミン:スプーンを使って取ろうとしても奥に着いたものは、なかなかすくえない。

 


イーサン:・・・そのすくえなかった情報が欲しかったのか?

 


ベンジャミン:・・・そうともいう。

ベンジャミン:そろそろロビィも事件を解決している頃だろう。

ベンジャミン:リズに戻って貰うとしよう。

 


イーサン:・・・それで、何が知りたかったんだ?

 


ベンジャミン:それは・・・リズに聞いてみればいいさ。

ベンジャミン:やぁシェリー。リズに変わって貰えないかな?

 


シェリー:(性格一変)

シェリー:・・・(溜息)なぁおっさんよぉ。

シェリー:私にもできないことはある。気がるに名前を改名させるんじゃあねぇよ。

 


ベンジャミン:仕方ないだろ?

ベンジャミン:FBI捜査官に成りすますのに偽名を使わないと色々と困ってしまうんだ。

 


シェリー:お陰でシェリーの人格がまだ残っちまってる。

シェリー:どうすんだよ。これ。

 


ベンジャミン:ふむ。もうミシェル・コールマンには種明かしをしてしまった。

ベンジャミン:殺してかまわん。

 


シェリー:・・・そうかい。

シェリー:それで、欲しかった情報ってこれか?

 


ベンジャミン:あぁ。これだ。

ベンジャミン:ありがとうリズ。キミには何か後で返そう。

 


イーサン:・・・なぁ、その情報とは一体何なんだ?

 


シェリー:あー・・・。私にも訳がわかんないんだけど。

シェリー:・・・FBIが捕まえた受刑者リストだと思う。

 


イーサン:・・・なんでそんなものを欲しがって・・・。

 


シェリー:それは・・・おっさんにしかわかんねーよ。

 


ベンジャミン:・・・ふふ。

ベンジャミン:そういう事か。

ベンジャミン:では私はでかけてくる;。

 


シェリー:・・・もう行っちまうのか?

 


ベンジャミン:あぁ。人とディナーの約束があるのだよ。

ベンジャミン:・・来ればの話だが。

ベンジャミン:

ベンジャミン:

ベンジャミン:

 :【間を開ける】

 :

 :

 ;

ミシェル:・・・。

 


ベンジャミン:やぁ。待たせたようですまない。

 


ミシェル:この手紙はなに?

 


ベンジャミン:ふむ。

ベンジャミン:私の字のようだが・・・。

ベンジャミン:「20時。ミッドタウンウエストのフレンチで待つ。」

ベンジャミン:ふむ。時間も場所もこの場所だな。

 


ミシェル:とぼけるのはやめて。

 


ベンジャミン:ふふ。ドレス姿のキミも実に綺麗だ。

 


ミシェル:・・・ベンジャミン。

 


ベンジャミン:いやいやすまない。

ベンジャミン:美しい女性を目の前にすると、口説いてしまうのは男の本能と言うべきかな。

ベンジャミン:手紙を読んで此処にいるという事は、

ベンジャミン:ロビィを口説いたが、フラれてしまったってところだろ。

 


ミシェル:・・・そうね。

ミシェル:私もフッてやろうかと思ったけど・・・。

ミシェル:何か私に用があったんでしょ?

 


ベンジャミン:あぁ。ロビィと貸した恩を返してほしいと思ってね。

 


ミシェル:・・・そう。私が「傷物」を返品しただけで恩だと思っているの?

 


ベンジャミン:彼を傷物と思ってしまうところが、君たちの悪いところだよ。

ベンジャミン:・・・傷っていうのは、勲章なんだよ。

ベンジャミン:彼がすばらしい素質を生み出したのはあの傷のお陰かもしれない。

ベンジャミン:・・・傷が人を成長させるのだよ。

 


ミシェル:・・・。じゃあアナタは傷だらけね。

ミシェル:それで、早くやって欲しいことを言いなさいよ。

 


ベンジャミン:ここの料理を食べながらでもいいんじゃあないのかい?

 


ミシェル:私も忙しいのよ。

ミシェル:・・・はやくして。

 


ベンジャミン:・・・とある人間と話したい。

ベンジャミン:その人は今監獄にいる。面会をさせて欲しい。

 


ミシェル:・・・その人の名前は?

 


ベンジャミン:イディアルキラーの盾。

ベンジャミン:ローレン家のメイド。

ベンジャミン:・・・フェイス・ピーラー。

 


ミシェル:・・・本気?

 


ベンジャミン:あぁ。本気さ。

ベンジャミン:フェイス・ピーラーだけが知っている情報。

ベンジャミン:・・・実の姉。ミランダ・グリーンの居場所をね。

 

島原偽物語

タイトル【島原偽物語

配役1;1

土方歳三(ひじかたとしぞう)♂
 
◯すずめ♀

ジャンル;ラブストーリー


本編……


●元治(げんじ)元年。6月5日。長州、土佐藩尊王攘夷派志士(そんのうじょういはしし)を襲撃した事変。
 池田屋事変。これで新撰組の名はさらに上がった。

 血の匂いをちらつかせ、俺は隊士らと共に島原へと繰り出した…。

◯おいでやすー。土方はんお久しゅうございますー。

●俺は酒はそんな呑まねぇからな。

◯あら、でもおばんするだけでもええやないですか。
 此処のウナギとおみおつけは美味しいとお客はんも言うてはりますえ。

●一人で来るようなところじゃあねぇだろうが…。
 ウナギを食うだけに島原に来る馬鹿はいねぇ。

◯そんなら、うちに会いに来てくれはったらええやないですか?

●お前に?

◯お前やのうて。すずめと呼んでおくれやす。

●そんな、名前なんてどうでもいいだろうが。

◯どうでもよーおまへん!
 うちの名前は、ねーさん達につけてもーた大事な名前どす。

●ふっ…姉さんね…。

◯血の繋がりがのうても、ねーさんはねーさんどす。
 偽物と言われても、信じる事で偽物が本物になると思てます。

●……俺はニセモンに笑ったわけじゃあねえよ。
 ニセモンも、本気で信じりゃ、誠になる。
 お前…じゃなかったな。すずめ…酌(しゃく)を頼む。

◯へぇ、おおきに。

●すずめ…お前も呑め。

◯お言葉に甘えて、おおきに。いただきます。

【間を開ける 】5秒

◯それにしても、土方はん…。
 そんな色っぽい顔してはりますのに、よおおもてになりまへんなぁ。

●女は……俺の刀を鈍らせる。

◯でも……土方はんに愛されるようなおなごはんは
 ちょっぴり。妬いてしまいますなぁ

●それは……聞かなかった事にしておこう。
 俺は…俺達はまだニセモンの武士だ。
 ニセモンが誠になれるまで、女はもてねぇ。

◯そんなら!!偽物でもかましまへん!!
 偽物の愛をうちにいただけませんか!?

●……俺からは何も出せねぇぞ。
 それでもいいのか?すずめ…。

◯うちは……土方はんのおそばにおられたらええどす。
 うちはそれだけで幸せや。

●ニセモンの家族の女とニセモンの武士の男。その恋愛すらニセモン。
 信じていれば、いつかは誠になる。
 俺はいつ誠になれるんだ?
 俺は……いつすずめを本当に好きになってやれるんだ?

 偽りの愛をすずめに捧げ、すずめは誠の愛を俺に返す。

 そうやって偽ったまま年月が経ち。慶應(けいおう)4年に戊辰戦争(ぼしんせんそう)が勃発し、
 新撰組も隊士を率いて闘ったが、新政府軍に敗北し新撰組は、江戸に向かった。

◯土方はん!!

●すずめ……。すまん。俺達は京都を離れる。

◯うちも!うちも土方はんと一緒に!!

●それは……だめだ。

◯なんでどす!?なんで土方はんのおそばにおられまへんの!?

●俺とお前は夫婦ではない。
 だから……俺はお前を連れて行く事はできない。

◯そんならうちを土方はんの嫁にしておくれやす!!

●すずめ…。
 すまない。俺はもしかしたら死ぬかもしれない。
 そんな俺に嫁なんか貰ってはいけない男だ。

 だから…。だからなすずめ。
 
 もし、俺がこの戦いで勝って、生き残って戻ってきたら…。

 すずめ…結納をしよう。

◯土方はん…おまちしてはります…。

●俺は生き続けた。何度も戦い、何度も敗北して、何度も生き残った。
 しかし、明治2年箱館戦争にて、五稜郭の前で新撰組副長、土方歳三は死んだ。

 約束は…果たせなかった。

 だが、ニセモンだった恋愛は…誠になっていた。
 俺は、すずめを本当に愛していた。

 

わんないと

One-Night

 


鍋島裕司

みやび

高橋えり

黒服

 

 

 

裕司:ん・・・んん・・・。

裕司:あ、朝か。(欠伸)

裕司:・・・あれ?此処、何処だ?

裕司:え?あれ??ラ・・・ラブホテル!?

裕司:ふ、服!!服は何処だ!?

裕司:ってか相手は誰なんだ!?

裕司:・・・・・。服と鞄は・・・あった。誰かの服も・・・。

裕司:

裕司:

裕司:

 :【間を開ける】

えり:

えり:

えり:

えり:(大笑い)

えり:じゃ、じゃあ・・・何??

えり:誰かとラブホに泊って、その誰かがわかんなくて・・・

えり:女性物の服が脱ぎ散らかってたってこと!?(大笑い)

 


裕司:・・・そんなに笑うなっての。

 


えり:いやいや、これ以上笑えるネタがあるなら寄こしなさいよ!!

えり:でも、相手は裸で帰ったってこと??

 


裕司:いや、何かの事件に巻き込まれた・・・とかだったら怖いだろ。

 


えり:だったら、何でアンタは無傷でベッドに寝てるのよ。

 


裕司:それもそうか・・・。

 


えり:・・・もしかしてさ。

えり:コスプレのデリヘルでも呼んでたんじゃない?

 


裕司:コスプレしたまま帰ったってことか?

 


えり:え?服を持ち帰れるオプションとかないの?

 


裕司:・・・あったとしても、下着とかだろ普通。

 


えり:いや、私がその普通を知ってるわけないじゃん。

 


裕司:あー・・・本当に思い出せない・・・。

裕司:なぁ、お前らが帰った後、どうして一緒に送ってくれないんだよぉ

 


えり:は?送り狼をまくのに必死な私にアンタの世話までできるわけないでしょ。

 


裕司:いや、だとしても!!

 


えり:くどい!

えり:・・・一応、昨日の女の子たちには連絡いれてみたけど、

えり:皆すぐ帰ったらしいから、お持ち帰りしたわけじゃあないからね。

えり:だったら、酔った勢いでデリヘル呼んだって説が一番濃厚でしょうが。

 


裕司:でも、鞄の中身は無事だったんだぞ?

 


えり:・・・鞄の中、見てみたら?

 


裕司:鞄の中?

 


えり:何か証拠が残ってるかもよ。

 


裕司:うーん・・・。

裕司:鞄っていっても財布くらいしか入ってないし・・・

裕司:財布の中だって金が抜き取られているわけじゃあ・・・。あ。

 


えり:・・・何かあったの?

 


裕司:なんかカードがあった・・・。

裕司:・・・One-Nifht?

 


えり:ほら、やっぱりデリヘルだったじゃん。

 


裕司:・・・いや、でもさ。

裕司:財布の中、減ってないんだぞ?

裕司:じゃあ、デリヘル代はどうしたんだよって話。

 


えり:・・・カード使ったとか?

 


裕司:カード持ってねぇし。

 


えり:・・・あー。悩んでも仕方ないよ。

えり:裕司、もう一回行ってみたら?

 


裕司:はぁ!?

 


えり:ここで二人で考えてもわからないじゃん。

えり:だったら、確かめたほうがいいって。

 


裕司:・・・そう・・・だな。

 


えり:じゃ、私は今日も合コンあるから。またねー。

 


裕司:あっ!ちょっと待てよ!!えり!!

裕司:・・・行っちまった。ったく他人事だと思って・・・。

裕司:

裕司:

裕司:

 :【間を開ける】

黒服:

黒服:

黒服:

黒服:(電話)はい、One-Nifhtです。

 


裕司:・・・あ。もしもし。

 


黒服:ご予約でしょうか?

 


裕司:えっと・・・はい。

 


黒服:キャストは女性、男性。どちらがよろしいですか?

 


裕司:あ、あの!!

 


黒服:・・・はい?

 


裕司:ここって・・・デリバリーヘルスなんですか!?

 


黒服:・・・えぇ。そうですが・・・どうしました?

 


裕司:キャストが男性と女性って・・・

 


黒服:あー・・・大変失礼しました。

黒服:当店は男性向けと女性向け。あとは特殊な趣味の方にも対応していまして。

黒服:キャストは女性をむかわせてもいいですか?

 


裕司:あ・・・はい。

 


黒服:ご指名のキャストはいらっしゃいますか?

 


裕司:・・・実は・・・昨日ここに電話したかもしれなくて・・・。

 


黒服:・・・当店は会員制なので、ネットも記載していないんですよ。

黒服:なので、お客様が此処の電話番号を知っている時点でご利用された事のあるお客様だと思われます。

 


裕司:・・・昨日は酔っていて思い出せなくて・・・。

 


黒服:・・あぁ。左様でしたか。

黒服:ご説明が必要でしたら、一度事務所の受付まで来ていただいてもよろしいでしょうか?

 


裕司:え?あ・・・はい。

 


黒服:では失礼いたします。

 


裕司:え?道は!?もしもし!?もしもーし!!

裕司:・・・切れた。ったく・・・ネットにも書かれていない店をどうやって探せって言うんだよ・・。

裕司:・・・あ。あのカードに住所は・・・これか・・。

裕司:

裕司:

裕司:

 :【間を開ける】

黒服:

黒服:

黒服:

黒服:おや・・・お早いお着きですね。

 


裕司:・・・ようやく着いた・・・。

裕司:黒服さん・・・せめて場所を教えてくださいよ・・・。

 


黒服:はは。

黒服:申し訳ありません。

黒服:たしかに、酔ったお客様にご説明した私も馬鹿でしたが・・・。

黒服:まさか次の日に来るとは思いませんでした。

 


裕司:黒服さん?性格変わってない?

 


黒服:まぁ、私も相手を選ぶ接客をするのは良くないとは思います。

黒服:・・・ですが。正直同じ説明を同じお客様に言う私の事も考えてもらいたいものです。

 


裕司:・・・申し訳ないけど、もう一回説明してもらえませんか?

 


黒服:えぇ。もちろんです。

黒服:では、最初から・・・。

黒服:One-Nifhtは普通のデリバリーヘルス店とは少し違います。

黒服:当店でのキャストとのお楽しみの時間は一夜のみとなっています。

黒服:初めてのお客様にはホテル代のみいただいております。

黒服:今回のお客様の支払いは1万円とホテル代ですね。

 


裕司:・・・え?安くない?

 


黒服:ラブホテルの経営もしておりまして。

黒服:あー。あとキャストは昨日指名した人でいいですか?

 


裕司:は、はい・・・。

 


黒服:では、ホテルの部屋についたらお電話ください。

黒服:その時はお部屋の番号もお忘れなく。いってらっしゃいませ・・・。

黒服:

黒服:

黒服:

 :【間を開ける】

裕司:

裕司:

裕司:

裕司:さてと・・・電話もして暫くたったから・・・

裕司:もうそろそろ来るかな。

 


みやび:失礼します。

 


裕司:あ!!はい!!

 


みやび:開けてもらってもいいですか??

 


裕司:あ・・・ちょっとまっててください!!

裕司:・・・どうぞ!

 


みやび:ありがとうございます・・・。

 


裕司:・・・。

 


みやび:あの・・・どうかしました?

 


裕司;い、いや!!・・・何でもないです・・・。

 


みやび:では・・・初めまして。

みやび:みやびと言います。

 


裕司:えっと・・・はじめまして?

 


みやび:え?違いましたっけ?

 


裕司:えっと・・・昨日一緒にいた・・・らしいんですけど・・・。

 


みやび:ふふっ。それは多分間違いですよ。

みやび:だって私、今日初めて働くんですから。

 


裕司:そう・・なんだ・・・。

 


みやび:じゃあ・・・今日はよろしくお願いしますね・・。

 


裕司:あ、ああ・・・。

 


みやび:そんなに緊張されちゃいますと・・・私まで緊張しちゃいますね。

 


裕司:え!?あ、あぁ・・。。

 


みやび:では・・・シャワー。一緒にあびましょ?

みやび:夜はまだこれからですから。

みやび:

みやび:

みやび:

 :【間を開ける】

裕司:

裕司:

裕司:

裕司:・・・(溜息)

裕司:なんか・・・初めてって感じがしない。

 


みやび:ふふっ。

みやび:まだそんな事言ってるんですか?

 


裕司:いや、昨日も同じような感じで遊んだ気がするんだよ。

 


みやび:もぉ。

みやび:他の女の事思い出してたんですか?

 


裕司:え?いやだからちがーー

 


みやび:もう、忘れちゃってください。

みやび:私だけ・・・私だけを思い出してください。

 


裕司:・・・あぁ。

 


みやび:じゃあ・・・ゆびきり。

 


裕司:え?ゆびきり?

 


みやび:はい。ゆびきり。

 


裕司:じゃあ・・・はい。

 


みやび:(指切りげんまんの歌)

みやび:ゆびきった。

 


裕司:・・・。なぁ。やっぱり・・・

 


みやび:さーてっと。

みやび:ねぇお兄さん。もう一回やらない?

 


裕司:え?

 


みやび:もう回復したんじゃないかしら。

みやび:夜が明けるまで楽しましょ。

 


裕司:え、ちょっとまーーー

 


みやび:ふふ・・・待てない。

みやび:

みやび:

みやび:

 :【間を開ける】

裕司:

裕司:

裕司:

裕司:うぅ・・・もう。朝?

 


みやび:ううん。まだ夜。

みやび:ふふ・・・。

 


裕司:・・・みやびさん。

裕司:まだしたりないんですか?

 


みやび:えー?

みやび:だってもう夜が終わっちゃうし・・・。

 


裕司:甘えてくれるのは嬉しいですけど・・・。

裕司:ちょっとシャワーあびてきますね。

 


みやび:じゃあ、待ってる。

 


裕司:え?あ・・・はい。

 


みやび:朝日が・・・もうそろそろ見えるかなって。

 


裕司:・・そう・・・ですか。

 


みやび:うん。

みやび:だから、いってらっしゃい。

 


裕司:は・・・はい。

 


みやび:・・・ふぅ。

 


裕司:・・・何だったんだろう。

裕司:みやびさん。急に寂しそうな顔をしてた気がする・・・。

裕司:・・・今日はあとは添い寝してもらって帰るとするかな・・・。

 


 :【数秒間をあける】

裕司:お待たせしました!!

裕司:・・・あれ?みやび・・・さん?

裕司:どこ行ったんだ・・・?みやびさーん!!

裕司:帰ったのかな・・・。あ。みやびさんの・・・服?

裕司:

裕司:

裕司:

 :【間を開ける】

えり:

えり:

えり:

えり:・・・それで、デリヘル嬢の服だけが残っていたと。

 


裕司:・・・あぁ。

裕司:なぁ、これどういう事なんだ??

 


えり:私が知りたいわよ。

 


裕司:・・・だよなぁ・・。

 


えり:うーん。ねぇ。その店って男女ともにできるんだっけ?

 


裕司:え?あぁ電話でそう言ってたけど・・・

裕司:まさか!!

 


えり:だって私も気になるんだもん。

えり:あと、私が頼むのはそのみやびって人ね。

えり:男に金払ってしたいとは思わないけど、女同士ってちょっと興味はあるからさ。

 


裕司:・・・そういうもんなのか?

 


えり:美人だったんでしょ?

 


裕司:いやまぁ・・・美人だったけど。

 


えり:だったらいいじゃん。

えり:じゃあ電話番号教えて。

 


裕司:・・・わかったよ。ほら。

 


えり:ありがと。

えり:さてっと・・・あ、もしもし?初めてなんですけど、いいですか??

 


裕司:・・・どうなっても知らないからな。

裕司:

裕司:

裕司:

 :【間を開ける】

えり:

えり:

えり:

えり:さてと・・・。

えり:・・・あー。なんか緊張してきた。

えり:ノリで電話しちゃったけど・・・ホラーの実証みたいなもんだけど・・・。

えり:・・・あ、普通に話だけでもいいのか。

 


みやび:失礼します。

 


えり:は、はい!!

 


みやび:・・・開けてもらってもよろしいでしょうか?

 


えり:わ・・・わかりました。

 


みやび:・・・あら。初めまして。みやびです。

 


えり:あ。キレイ・・・。

 


みやび:ふふ・・・。ありがとうございます。

みやび:アナタもキレイですよ。

 


えり:あり・・・がと。

 


みやび:じゃあ、入ってもいいですか?

 


えり:ど、どうぞ。

 


みやび:えっと・・・何から始めようかしら・・・。

 


えり:きょ、今日は・・・話だけでもいいですか?

 


みやび:え?

 


えり:いやー・・・。ちょっと興味があっただけだったんですけどね。

えり:あはは・・・緊張しちゃって。

 


みやび:ふふ。そうでしたか。

みやび:いいですよ。どんな話をしましょうか。

 


えり:んー。じゃあ、この仕事をしたきっかけとか。

 


みやび:唐突ですね。

みやび:うーん。気が付いたらやってた・・・って駄目ですかね。

 


えり:まぁ私もお金ない時とかやろうかなーっとか思っちゃうことあるけどさ。

えり:流石に思いとどまってるところだけどね。

 


みやび:そうなんですか?

 


えり:あー。敬語はいいよ。ため口で。

 


みやび:・・・えぇ。わかったわ。

みやび:

みやび:

みやび:

 :【間を開ける】

えり:

えり:

えり:

えり:・・・それでね。

えり:ふかしたジャガイモに塩辛とバターが合うってソイツが言うのよ。

 


みやび:ふふ。

みやび:それは本当に合うのかしら。

 


えり:いや、それが意外にも合うんだって!!

えり:・・・あー。もうこんな時間か・・・。

えり:なんかお酒の飲まずに話たの久しぶりかも。

 


みやび:夜明けも近いわね。

 


えり:え?あぁ・・・そうね。

 


みやび:今日はとっても楽しかったわ。

みやび:ありがとう。

 


えり:じゃあ今度はお酒を飲みながら話そうよ。

 


みやび:そうね。また今度。

 


えり:・・・あー。日が昇っちゃうよ。

えり:みやびはいつもこんな時間まで働いているわけ?

 


みやび:・・・あ・・・あ・・・・。

 


えり:みやび?・・・!?

 


みやび:あ・・・あ・・・あぁ・・・。

 


えり:な・・・・なんなの・・・なんなのよぉ!!!

えり:

えり:

えり:

 :【間を開ける】

裕司:

裕司:

裕司:

裕司:えり!?

 


えり:・・・あ。裕司。

 


裕司:わりぃ遅くなった・・・。

裕司:てか何でドアの外にいるんだよ・・・。

 


えり:・・・怖くて。

 


裕司:怖い・・・?

裕司:・・・中で何があったんだ?

 


えり:・・・みやびが・・・溶けたの。

えり:まるで氷が溶けるみたいに・・・。

 


裕司:溶ける・・・?

裕司:お前・・・大丈夫か?

 


えり:大丈夫なわけないでしょ!!!

えり:人が急に溶けるなんて・・・訳わかんない!!

 


裕司:お、落ち着けって・・・。

裕司:・・・なぁ。服は溶けたのか?

 


えり:わかんない・・・

 


裕司:大事な事なんだ・・・

裕司:服は溶けてなかったのか??

 


えり:・・・とけて・・・ない。

 


裕司:・・・そういう事だったのか・・・。

裕司:なぁ、俺はこれから事務所にむかうけど・・・。

裕司:えり、一人で大丈夫か?

 


えり:ううん・・・。私も行く。

えり:今は誰かと一緒にいないとおかしくなっちゃう。

 


裕司:じゃあ・・・行くぞ。

裕司:

裕司:

裕司:

 :【間を開ける】

黒服:

黒服:

黒服:

黒服:あぁ、いらっしゃいませ。

黒服:今日は、電話もかけてくれないんですね。

 


裕司:・・・説明しろ。

 


黒服:はい?なんのことですか?

 


裕司:とぼけるな!!

裕司:あの女の事だよ!!

 


黒服:・・・さて、何のことですかね。

黒服:彼女に対してのクレームでしょうか。

 


裕司:・・・まだとぼけるのか。

 


えり:ねぇ・・・。

えり:どうして人が溶けるの?

 


黒服:・・・これはこれは。

黒服:高橋様。アナタは見たのですか。

 


えり:ふざけないで教えてよ・・・。

 


黒服:・・・わかりました。

黒服:高橋様のご質問にお答えしましょう。

黒服:ですが・・・。どうか皆さま。この事はご内密にお願いいたします。

 


裕司:内密って・・・どういうことだよ。

 


黒服:ふふ・・。

黒服:それは見ればわかりますよ。

黒服:この世紀の大発見を。

黒服:あ、ちょっとお待ちを・・・。

黒服:・・・私だ。彼女を出してくれ。

 


裕司:・・・彼女?

 


えり:・・・まさか。

 


黒服:えぇ。彼女ですよ。

黒服:もう少しお待ちを。

 


えり:だって・・・ついさっき私の目の前で溶けて・・・

 


みやび:はい。お待たせしました。

 


えり:!?

えり:・・・なんで・・・!!

 


裕司:えり・・・どういうことだよ・・・。

裕司:みやびさんは溶けて消えたって言ってたじゃあないか!!

 


えり:私だって知りたいわよ!!

えり:え・・・?え??どういう事・・・

 


みやび:初めまして皆さま。みやびといいます。

 


裕司:・・・は?

 


えり:・・・はじめ・・まして・・?

 


みやび:あれ?・・・違いましたっけ・・・?

 


黒服:いいえ。初めましてですよみやびさん。

黒服:・・・アナタは。ね。

 


みやび:あぁ・・・。そうでしたか。

 


裕司:あー・・・。だめだ。意味がわかんねぇ・・・。

 


えり:・・・この人は・・・私たちのあったみやびとは違うって・・・こと?

 


黒服:・・・ふふ

黒服:では。高橋様。鍋島様。どうぞこちらへ。

 


裕司:・・・わかった。

 


えり:ね、ねぇ・・・裕司。本当に行くの?

 


裕司:・・・行かないと。わかんないだろ・・。

裕司:

裕司:

裕司:

 :【間を開ける】

えり:

えり:

えり:

えり:・・・ここは?

 


黒服:One-Nifhtの秘密の部屋です。

黒服:ところで・・・皆さまは世界三大美人ってご存じですか?

 


裕司:楊貴妃クレオパトラ小野小町だろ?

 


黒服:えぇ。他にも世界には多くの語り継がれる美男美女がいますね・・・。

黒服:・・・もしも。そんな美男美女と一夜をともにできるとしたら・・・どう思います?

 


裕司:どう・・思うって・・。

 


えり:そんな事はできないに決まってるでしょ。

 


黒服:でーすーが・・・。可能だとしたら?

黒服:One-Nifhtは・・・そんな夢のあるお店なんですよ。

黒服:その人のDNAさえあれば・・・ね。

 


えり:そんな・・・クローン・・・?

 


裕司:ちょっとまて・・・。人のクローンを作るのは違法じゃ・・・。

 


黒服:たしかに。今はそうかもしれません。

黒服:ですが、培養液で保存しているこの子たちを・・・。

黒服:はたしてクローンと。ましてや人間と呼べるのでしょうか?

 


みやび:そうですね・・・。

みやび:呼べないんじゃあないでしょうか。

みやび:だって・・・私たちは・・・人間じゃあないから。

 


黒服:そうですね・・・。

黒服:現在の最新の技術でこの子たちの寿命は6時間といったところでしょうか。

黒服:日の光を浴びてしまえば、一瞬で消えてしまう儚い存在。

 


裕司:じゃあ・・・どうして作るんだよ!!

裕司:そっちのほうが可愛そうだと思わないのかよ!?

 


黒服:・・・人間の寿命と同じくらい外に出せる存在を作るには、

黒服:資金が必要なのです。

黒服:だからこうやって資金集めを・・・

 


裕司:そうじゃあねぇ!!

裕司:作る事をやめれば済むじゃあねぇか!!

 


黒服:・・・何故?

 


裕司:は?

 


黒服:何故人間を作るのを辞めなければならないんでしょう?

黒服:鍋島様。アナタ、この実験が成功すれば、不老不死も夢じゃあないんですよ?

黒服:記憶をそのままに残せる代用品が。

黒服:永遠の命のヒントがすぐ目の前に存在してるんですよ?

黒服:アナタは・・・死ぬのが怖くないのですか??

 


裕司:・・・そんなん知るか。

裕司:人間が入っちゃいけない領域ってのがあるだろうが・・・。

 


黒服:(溜息)

黒服:思考を停止しているようですね。

黒服:高橋様。

 


えり:・・・え?

 


黒服:アナタは欲しくないですか?

黒服:永遠の若さ。

 


えり:・・・それは・・・。

 


黒服:・・・そうですか。

黒服:私も興奮してしまい、大変申し訳ございませんでした。

黒服:何年もやっているというのに、ここまで来れたのはアナタ方が初めてだったもので・・。

黒服:・・・どうぞお引き取りを。みやび。

 


みやび:はい。

 


黒服:お二人をお連れして。

 


みやび:かしこまりました。

 


裕司:・・・なぁみやびさん。

 


みやび:はい。なんでしょうか?

 


裕司:・・・。アンタは怖くないのかよ。

 


みやび:言っている意味がわかりませんが・・。

みやび:多分。アナタ達だって、死ぬのは怖いでしょ?

 


裕司:・・・それは。

 


みやび:でも、死ぬってどういう意味かわからないじゃあないですか。

みやび:死ぬって知識は知っていても、死んだことはない。そうでしょ?

 


えり:だから・・・怖くないの?

 


みやび:いいえ。怖いですよ。

 


えり:ならどうして!!

えり:・・・どうしてそんなに笑顔でいられるの・・・。

 


みやび:それは・・・。

みやび:生きているのが楽しいから。

 


裕司:・・・みやびさん。ごめん。

裕司:俺たち、アンタのこと何もわかっていなかった。

 


みやび:・・・。いいんですよ。

みやび:気にしないで。

 


えり:・・・裕司。ごめん。

えり:私、もう耐えられない・・・。

 


裕司:あぁ。行こう。

 


みやび:あ、鍋島様。

みやび:・・・次は、酔わずにいらしてくださいね。

 


裕司:・・・え?

 


みやび:ふふ。

みやび:それじゃあ。さようなら。

みやび:

みやび:

みやび:

 :【間を開ける】

黒服:

黒服:

黒服:

黒服:・・・ふう。

黒服:やっぱり、分かってもらえないものだね。

 


みやび:えぇ。そうですね。

 


黒服:多分。あの二人、警察に連絡すると思う。

 


みやび:そうですね。

 


黒服:そろそろ潮時だと思っていたけど、

黒服:さぁて・・どこに行こうかな。

 


みやび:そう・・・ですね。

 


黒服:・・・時間か。

黒服:また次の君に話を聞いてもらうとするよ。

 


みやび:・・・また・・・・

 


黒服:さて・・・。

黒服:そろそろチームの誰かが墓荒しから帰ってくるはずだから連絡をっと・・・。

黒服:・・・・・・・ん?

黒服:また?・・・・また・・・・ね?

黒服:ふふ。まさかね。記憶の移植が成功したとは思えないな。

黒服:・・・さて。次こそ成功してくれよ・・・。みやび。

 

 

 

 

化かされ

声劇落語【化かされ】

 

 

 

皆さまは、狐や狸と言われたら何を想像されるでしょうか。

 


えぇ、そばやうどんを思い浮かべる方もいらっしゃるでしょうが、

人や物に化けて人間を驚かす……ってのがこの動物達にはできると言われております。

 


まぁ、本当に出来る訳じゃあありませんが、昔からそんな風に言われておりました。

 


そう……こんな風に……。

 

 

 

●兄ちゃーん!!兄ちゃんいるかい??

 


◯ん?誰かと思えば、弥太郎じゃねぇか。

 そんな所突っ立ってねぇでお上がりよ。

 


●へへ、自分家にお上がりよって言われちった。

 


◯まぁ、お前はある意味では他所の子だと思いたいくらいの馬鹿さ加減だがな。

 それで、何かあったのかい?

 


●そうそう!染め屋の五郎さんってのがいるだろ?

 あの人がね……ふふふ。ふははは!!

 


◯おいおい、いきなり笑って気味が悪いじゃねぇか。

 それで染め屋の五郎がどうしたんだい?

 


●ふひひ……あ、笑すぎて忘れちまったよ。

 


◯本当に馬鹿だなお前は……。

 まぁ、でも五郎の噂話は俺の耳にも入ってるよ。

 狐に化かされて財布の中身、全部持ってかれちまったそうじゃないか。

 


●そうそう!オイラびっくりしたよ。

 


◯あぁ、あの五郎がねぇ……。

 真面目に商売してると思っていたが、まぁ、人間誰しも裏の顔ってのがあるってもんだな。

 


●え?兄ちゃん……馬鹿だなぁ。

 オイラにも五郎さんにも、頭の後ろに顔なんかついてねーよ。

 


◯いや、裏の顔ってのはだな。

 人にはまだ見せてないような事をしてるってことだ。

 


●そうなのかぁ。オイラてっきり後ろに顔があるもんだと思ったよ。

 


◯そんなあるわけねぇだろうが馬鹿。

 後ろに顔があるやつを見たことあんのか。

 


●ううん。ないよ。

 


◯まぁ、いいや。

 あ、五郎の話で思い出したんだけどよ、先週は酒屋の辰吉(たつきち)が狸に騙されたって言ってたな。

 


●え?今度は狸に??

 兄ちゃん……ちょっと聞いていいかい?

 


◯ん?どうした??

 


●狸や狐に化かされて財布の中身が空になるっていうのはさ。

 財布の中身を狸と狐に盗られたってことだろ?

 


◯まぁ……そうだな。

 


●……狸と狐は金を何に使ってるんだろうね。

 


◯……あー。そういう事か。

 違う違う。狸と狐っていうのはだな、人に騙されてお金を盗られたって言ってんだよ。

 


●じゃあ人に騙されてお金盗られたって言えばいいじゃないか?

 


◯それだと恥ずかしいだろうが。

 まぁ、どっちにしても恥ずかしいんだが、狸や狐に化かされたって言ったほうが気持ちは楽だからな。

 


 あ、ちなみに狐は女に化けて、狸は物を化かすみたいだな。

 


●へぇ……兄ちゃんは物知りだなぁ。

 


◯お前よりかはな。

 あ、そうだ……いい事思い付いたぞ。

 


●今度はイタチに騙されるかい?

 


◯ちげーよ。

 いいか。狸に騙されて財布の中身が空になったってお上(かみ)に言うんだよ。

 そしたら、それ以上可愛そうな事はないってお上は金を少しだけわけてくれるんだとよ。

 なんでも一両は軽く貰えると思っていいらしいな。

 


●そんなにもらえるんですかい!?

 


◯あぁ、ちょいと行ってみてお上に金もらってくるか

 

 

 

……と、軽い気持ちで化かされたとお上に報告をしに行くと。

まぁ、そんな軽い気持ちの輩というのは沢山いるわけで。

役所には人の山が。

それもどいつもこいつも狸に化かされたと……。

 


流石の人のいいお上も全員を追い返す始末。

 

 

 

◯いやぁ……人が多すぎて金貰えなかったな。

 遠くまで来てこのまま帰るって言うのも面白くないな。

 ちょっとその辺で一杯ひっかけて帰るか

 


●お、兄ちゃんの奢りかい!?

 


◯どーせ金なんて持ってねんだろ?

 俺が奢ってやるから、ついてきな。

 


●あははー!兄ちゃんありがとー!

 


□お兄さんお兄さん!!

 ちょっといいかい??

 


そこで声をかけてくる謎の美女。とても綺麗な着物を着て、かんざしをつけたいい女。

そんな美女に声なんてかけられた事のない男2人。

まぁ戸惑いますわな。

挙動不審な動きをしてしまい、声をかけた美女のほうが驚いてしまいそうになってしまう。

 

 

 

◯おおおお……おう。

 俺たちにナニカヨウカイ?

 


□え?あー……そうなんだけど……

 具合でも悪いのかい?

 良かったら私の働いてる店で休んでいきなさいよ。

 


●あああああ兄ちゃん……。

 どうしようオイラ……こんなべっぴんさんに声なんてかけられちゃってるよ!!

 


◯ば、馬鹿野郎!!

 いいいいくらべっぴんだからってな!!相手は女だ!!

 お前んとこのかかぁと一緒だ!!

 


●オイラのかかぁと!?

 そんなことある訳ないだろう!?

 あのべっぴんさんが月だったらオイラのかかぁなんて、もうスッポン通り越して牛蛙とかそっちだよ!!

 


◯お、おお……ひでぇ言われようだな。

 まぁ、俺のかかぁも同じようなもんだが……。

 とにかく、折角誘われたんだ。その店で呑んで帰るとするか。

 


●うんうんうんうん!!!

 

 

 

……と、ホイホイついてった男2人。

まぁ、美味しい話と美女には喰いつくなってのは今も昔も変わらないわけで……。

まんまと喰いついてしまった魚2匹。

 


釣られた魚がどうなるかは解りきったこと。

散々財布の中身を搾り取られた挙句、身ぐるみ すら剥ぎ取られ、

下着一丁で追い出されてしまい、お上に御用になってしまう始末。

 


☆それで……なんであんなところで下着一枚でうろうろ歩いてたんだ?

 


◯そ、それはですねぇ……

 おい弥太郎……俺の代わりに言ってくれよー!!

 


●そりゃぁ……狐に化かされてしまいましてね。

 財布も着物も全部取られてしまったんですよぉ!!

 あ、ちなみに狐っていうのは女狐のことね!!

 


◯馬鹿野郎!その言い方だと染め屋の五郎と同じになっちまうじゃねぇか!!

 


●え?でもこういう時って同じ言い方なんじゃないのかい?

 


◯ま……まぁそうなんだが……

 あ…お上!!違うんですよ!!本当に夜店に行って騙されちまったんですよ!!

 


☆(ため息)またそういう悪戯か…。

 化かされただの盗まれただのってもう聞き飽きちまった!!

 まぁ、お前らみたいに着物すら着てこない奴は初めてだったがな!!

 


◯あぁ……やっぱり信じてもらえねぇ……。

 これじゃあ狼少年じゃねぇか。

 


●いやいや。狼じゃなくて、狐に化かされたわけで。

 


◯弥太郎……。もう信じちゃ貰えねぇよ。

 このまま言い続けても、化かされたじゃなくて、馬鹿にされちまうぜ…。

 

 

 

お後がよろしいようで

 

 

 

また月末に領収書かよ

声劇台本【また月末に領収書かよ】

 


配役

猫田;猫ONE

寺馬(じば);ジッパー

 

 

 

本編

 


寺馬;会社の経理部にとって月末ほど忙しい1日はないだろう。

   1ヶ月に出た会社の失費を計算する必要があるからだ。

   部署事にやってくれるのであれば、我々の仕事はまだ楽になるのだが、

   問題は営業部の外で出た失費なのだ。

 


猫田;あ、寺馬さん。

 


寺馬;……(ため息)何ですか猫田さん。

 


猫田;出してなかった領収書なんですが、どこに置いておけばいいですか?

 


寺馬;あのね、猫田君。

   何度も何度も言ってる事だけど、月末にまとめて領収書を出すのをやめてって言ってるでしょ?

 


猫田;だってさぁ……。営業行ってたら夜遅いしぃ。

 


寺馬;だったら朝早く来て経理に渡すとか……。

   帰ってきた時にデスクにメモと一緒に置いておくとか……。

 


猫田;いや、朝はギリギリまで家にいたいし、

   夜はくたくたでそういう事忘れちゃうんだよねぇ。

 


寺馬;それを月末にしか出せない理由にはならないですよね?ね?

 


猫田;いや、俺は悪くない!!

 


寺馬;100%悪いわ!!

   ……じゃなくて……。毎日出せば誰も文句は言わないんですよ。

   誰が悪いとか、悪くないじゃなくて、やってください!!

 


猫田;だってぇ……。

 


寺馬;だって?

   スーツを洗濯したんですか?領収書がしわくちゃで読めないじゃあないですか。

 


猫田;読めません?ほら此処。

   ドーナッツの領収書ですよ。

 


寺馬;……ドーナッツ?

 


猫田;この前、ドーナッツを配ったじゃあないですか。

   その領収書です。

 


寺馬;……遠らねぇよ!!

 


猫田;じ……寺馬さん?

 


寺馬;何でドーナッツの領収書が通ると本気で思ってんだよ!!

 


猫田;一回落ち着いて考えて!!

   ……ドーナッツってもらったら嬉しいでしょ?

 


寺馬;……(ため息)ok。それで?

 


猫田;社内がハッピーになる。

 


寺馬;だから?

 


猫田;沢山ドーナッツを買ったので、どうか通してください……。

 


寺馬;……いや、ねぇわ。

 


猫田;だ、だったら今度一緒に食べに行来ませんか!?

 


寺馬;……はぁ?え?ちょっと待って。

   猫田さんは私とドーナッツを買いに行って何がしたいんです?

 


猫田;美味しかったら領収書を通して欲しいな……と。

 


寺馬;……いや。私の判断でどうにかなる訳じゃあないんですよ?

 


猫田;だとしても、ここのドーナッツが美味しいって事は分かりますよね。

 


寺馬;えーっと……馬鹿なの?

 


猫田;領収書とか、経費とか……今の俺には関係ないんですよ!!

   一緒に……ドーナッツを買いに行ってはくれませんか?

 


寺馬;……では、仕事が終わってから。

 


猫田;それじゃあダメですよ!!閉まっちゃいます!!

 


寺馬;え?ちょ、ちょっと!!

 


猫田;もうすぐドーナッツ屋さんが閉まっちゃうんで!!今すぐ行かないと!!

 


寺馬;わ、わかりました!!わかりましたから!!

   手を離してください!!

 

 

 

寺馬;(私は猫田さんと一緒にドーナッツを買いに行く羽目になり、

    結局夜遅くまで残業する事になりました。

    ただ……月末に連れ出すのではなく、

    別の日に行けばいいのではないかと思いました。

    次の月末に、彼がどんな言い訳をするのか。ちょっと楽しみな私でした。)