神渡し
鴨居:さてと・・・。今日はここまでだ。
鴨居:会社に遅れてしまう。
鴨居:行ってくるよスクナ。
スクナ:ほう。ヌシ・・・。
スクナ:ワシの教えを無視して、まぁた何処に行くというのかえ?
鴨居:だから会社だっての・・・。
鴨居:耳はちゃあんと聞こえているんだから、何度も言わせるんじゃあない。
スクナ:ふふ。
スクナ:会社など、別にもう必要な事ではないじゃろ?
鴨居:じゃあ、どうやって生活しろって言うんだ?
鴨居:人間っていうは、人間社会で生きるって言うのは、金がないと生きていけないんだ。
鴨居:何かを食べるにしても、何処かに住むにしても、何かを着るにしてもな。
鴨居:衣食住をしっかり確保して安定したいから人間は会社に行き、
鴨居:仕事の報酬としてお金を貰って生活するんだよ。
スクナ:その質問。答えてやろう。
スクナ:人間の生活なんぞ、しなくてもよい。
スクナ:何かを食べる必要もない。着るものなんて気にするな。
スクナ:住む場所に関しては・・・先代の住居があるじゃろうて。
スクナ:人間の生活なんぞ、今のヌシにはただの記憶と習慣でしかない。
鴨居:・・・一応まだ人間だぞ。俺は。
スクナ:いんや。もう人間ではない。
スクナ:半分人間かもしれぬが、そんなモノ・・・。
スクナ:人間とは呼べんじゃろ?
鴨居:(溜息)
鴨居:一応、俺の今の状況を調べる為にさ。
鴨居:ネットで調べたら出てきてよ・・・。
スクナ:まぁ・・・じゃろうな。
鴨居:半人半神。
鴨居:・・・現人神(あらひとがみ)って言うんだろ。
スクナ:最近は物を調べるのも楽で良いのう。
スクナ:それで?
鴨居:人間のままの生活はできるなぁってな。
鴨居:ちょっと安心しただけさ。
鴨居:スクナ。お前の言う通りに今すぐ人間を辞めなくても済むって思っただけだ。
鴨居:・・・いってきます。
スクナ:・・・まったく。
スクナ:先代は何故あのような男を選んだか理解に苦しむ。
スクナ:
スクナ:
:【間を開ける】
:
:
日向:あ。鴨居先生。おはようございます。
鴨居:おはようございます。日向さん。
鴨居:今日は問題なかったかい?
日向:えぇ。
日向:快適に眠れました。
鴨居:それは良かった。
日向:ふふ。
日向:先生のおまじないが効いたのかしら。
鴨居:え?
日向:だってアレ・・・おなじないでしょ?
日向:指先で・・・トントンって。背中を叩くやつ。
鴨居:あ・・・あはは・・・。
鴨居:他の人には言わないでくれると助かるな・・・。
鴨居:患者にセクハラしてると言われてしまうからね。
日向:ふふ・・・。
鴨居:なんだい?・・・その悪そうな顔は。
日向:あーなんだか急にカステラが食べたくなったなー!!
鴨居:・・・患者に他所のものを食べさせるのはあまり良くは・・・
鴨居:いや、そもそも特定の患者に何かをプレゼントするのは・・・・
日向:そうですか・・・残念です。
日向:口が滑ってしまいそうだったので、甘いもので滑り止めをと・・・
鴨居:わかった!!わかったから!!!
鴨居:・・・一日一切れ。午後3時のおやつにするくらいなら許そう・・・。
日向:ふふ。ありがとうございます。
日向:あ、駅前のお店のでお願いしますね。
鴨居:あぁ。駅前のカステラだな。
鴨居:なんとか用意しよう。
日向:やったー!!
日向:(大咳)
鴨居:日向さんっ!!
日向:だ、大丈夫・・・大丈夫です・・・。
日向:あはは・・・。調子に乗りすぎました・・。
鴨居:(安堵)
鴨居:・・・今は何ともありませんか?
日向:・・・えぇ。大丈夫です。
日向:じゃあ・・・診察・・・お願いします。
鴨居:あ・・・あぁ。わかった。
日向:・・・。先生。
鴨居:ん?
日向:私・・・。
日向:あと、どれくらい生きられるんでしょうか?
鴨居:・・・何を言っているんだい?
鴨居:キミはちゃんと手術が成功して、体力を回復するためにこっちの病院に移ったんじゃあないか。
日向:・・・えぇ。そう・・・でしたね。
鴨居:・・・さてと。
鴨居:まだ発作は起きるだろうから。ちゃんと安静にしていないとダメだよ。
鴨居:それじゃあ、お大事に。
日向:はい・・・先生。また・・。
日向:・・・・・・・・・・・・・・嘘つき。
日向:
日向:
:【間を開ける】
:
:
スクナ:帰ったか。
スクナ:ヌシよ。ワシから一つ言いたいことがある。
鴨居:おいスクナ!!
鴨居:お前・・・神の御業はバレないって言っただろが!!
スクナ:・・・なんじゃ急に。
鴨居:・・・患者にばれた。
スクナ:何したんじゃ?
鴨居:身体の治療。
スクナ:ヌシが?成功したのか?
鴨居:ほんの少し治癒が出来るくらいなら俺にもできる。
スクナ:ほぅ・・・。
スクナ:万物の再生は、誰にも出来ることではないぞ。
鴨居:いや!そうじゃあなくて!!
鴨居:御業がバレたんだっての!!
スクナ:ヌシが治癒したと、そいつは解ったのか?
鴨居:・・・いや、背中に触れただけだって
スクナ:御業はバレてないじゃろ。
スクナ:はい。この話はしまいじゃ。
鴨居:いやいやいやいや!!!
鴨居:だから触っていることに気づいて・・・
スクナ:それは半分人間だからじゃろ。
鴨居:あー・・・マジか・・・。
鴨居:それに・・・神の御業ってやつも、大したことないな・・・。
スクナ:それは人間が望みすぎなんじゃよ。
スクナ:神なら、どんな事でも出来る。全知全能の力を持っている。
スクナ:だから神には何でもできる。とな。
鴨居:・・・ちがうのか?
スクナ:当たり前じゃ。
スクナ:雨を降らすのには、雨の神。
スクナ:田畑を実らせるには、豊穣の神がおる。
スクナ:全知全能の神なんぞ、一握りの神しかおらんのじゃ。
スクナ:それに、人間は殆ど自らの力で解決できるくらい成長したしのう。
スクナ:ワシらを必要としないくらいに。
鴨居:いや、神頼みなんて今でもしてるだろ。
スクナ:あぁ。来るのう。ワシらでも無理な願いを叶えて欲しいと願いに来る。
スクナ:誰かと恋仲になりたい。
スクナ:出世が欲しい、金が欲しい。
スクナ:病気を治して欲しい・・・なんてのう。
鴨居:・・・。
スクナ:いいか。
スクナ:何度でも言ってやろう。
スクナ:ワシらは全知全能ではない。
スクナ:例え、病を治せる力があったとしても、きっかけを与えてやる事しか出来ん。
スクナ:叶えれるのは・・・最後は自分次第ってことじゃ。
鴨居:神よりも、欲を持った人間のほうが優れてしまった・・・
鴨居:そういうことか。
スクナ:まぁ、娘の病はヌシが治すんじゃろ?
スクナ:神の御業を使わなくてものう。
鴨居:・・・ちょっとまて。
鴨居:俺は誰に対してこのチカラを使ったと言っていないんだが・・・。
スクナ:ふふ。
スクナ:そんなもの。ワシの千里眼をもってすればなんてことない。
鴨居:・・・神よりも人間のほうが優れているなんて・・・やっぱり嘘じゃあないか。
スクナ:ヌシも肉体を捨てればすぐにできるぞ?
鴨居:・・・肉体・・・か・・・。
鴨居:なぁスクナ。
スクナ:そんな質問をするな。
鴨居:まだしてないだろ。
スクナ:聞かぬともわかるわ・・・。
スクナ:ヌシの考えていることも、何をしようとしているのかもな。
鴨居:・・・。
スクナ:この話は終いじゃ。
スクナ:ワシはもう寝る。
鴨居:・・・そう・・・か。
鴨居:言わないって事は・・・出来るのか。
鴨居:
鴨居:
鴨居:
:【間を開ける】
:
:
日向:ねぇ、鴨居先生?
日向:・・・鴨居先生ー?
鴨居:・・・。
日向:鴨居先生!!
鴨居:うわっ・・・びっくりしたぁ・・・。
鴨居:どうかしたのかい?
日向:・・・呼んでも返事がなかったので、。
日向:考え事でもしてるのかなーっと。
鴨居:あ、あぁ・・ちょっとね。
日向:何考えてました?
鴨居:・・・秘密。
日向:えー・・・。
日向:・・・私の事ですか?
鴨居:え?ええ?
日向:だって鴨居先生。
日向:すぐ顔に出ますもん。
鴨居:そう・・・か。
日向:・・・私、そんなに悪いんですか?
鴨居:そんな事はないよ。
鴨居:今日は天気もいいから病院の近くなら出かけてもいいかなって思っただけだよ。
日向:・・・嘘つき。
鴨居:嘘じゃあないよ。
日向:じゃあ・・・私の病気が本当は悪くて、
日向:もし、死んだとしたら・・・先生。一緒に死んでくれます?
鴨居:それは・・
日向:・・・やっぱり。先生は嘘つきです。
鴨居:・・・わかった。
鴨居:もし、日向さんの体調が悪くなったとする。
鴨居:・・・その時は、責任をとるよ。
日向:責任って?
鴨居:俺が必ずキミを治す。
鴨居:例えどんな方法だとしても。
日向:・・・へぇ。
日向:鴨居先生ってさ・・・。
日向:たまに良く分からない顔、しますよね。
鴨居:分からない顔ってどういう事かな?
日向:嘘をついてるってすぐ顔にでるのに。
日向:たまに嘘だって分かる言葉が嘘だって顔にでないんです。
鴨居:えーっと・・・。
鴨居:よく・・・わからないな。
日向:だから分からない顔なんですって!
日向:ほら!!外連れてってくれるんですよね??
日向:早く行きましょ!!
鴨居:あ、あぁ・・。わかった。
鴨居:
鴨居:
:【間を開ける】
:
:
日向:んー・・・風が気持ちい・・・
日向:隣の神社までならいいですか?
鴨居:あぁ。いいよ。
日向:ふふ。やった♪
日向:そういえば・・・あの神社って夏祭りとかするんですか?
鴨居:いや、秋の祭りだな。
鴨居:夏祭りは・・・隣町でやるはずだよ。
日向:へぇ・・・。
日向:ねぇ、先生。夏祭りと秋祭りの違いって何か解ります?
鴨居:秋祭りは収穫を感謝する祭りで
鴨居:夏祭りは厄払い・・・。
鴨居:疫病退散の願う祭りだったと思ったけど。
日向:夏祭りって、他にも農作物を虫や台風みたいな妨げを予防するためにするみたいですよ。
鴨居:へぇ・・・。
鴨居:知らなかったな。
日向:私、神様とか信じるタイプなんで。
鴨居:じゃあ、この神社に祀っている神様は・・・誰か知っているかい?
日向:うーん・・・。
日向:秋祭りってことは、豊穣の神様だから・・・。
日向:きっといい神様ですよ。
鴨居:蛇だよ。蛇。
鴨居:だから良い神様ではないと思うよ。
日向:・・・蛇が神様なのに、夏祭りじゃあないんですか?
鴨居:・・・そういえばそうだな。
日向:きっと、他にも神様がいるんですよ。
日向:蛇は蛇でも、白蛇様でしょうし。きっと良い神様だと思います。
日向:そうじゃあなかったら、きっとこの町の祭りは夏祭りですよ。
鴨居:・・・夏祭りの神様って悪い神様なのか?
日向:所説ありますけど・・・
日向:夏祭りって秋祭りよりも盛大にやるところが多いんですよ。
日向:それは、神様に悪さして欲しくないからって言われています。
鴨居:・・・神様が・・悪さねぇ・・・。
日向:まぁ、本当かどうかはわかりませんけどね。
鴨居:・・・良い神と悪い神・・・。
日向:あ!!先生見てください!!
鴨居:え?
日向:白蛇がこっちを見てますよ!!
鴨居:なっ!?
日向:縁起がいいですねー!!
日向:これはお賽銭でもいれないと・・・
鴨居:そ、そろそろ帰ろうか!!
鴨居:身体が冷える前に!!ほら!!
日向:あ、ちょっとまってください!!
日向:せめて写真だけでもー!!!
スクナ:・・・あれが。例の娘子か。
スクナ:
スクナ:
:【間を開ける】
:
:
鴨居:あー・・・いつもだったら社(やしろ)にいるってのに・・・
スクナ:ヌシの気にしている娘子がどんな顔かちゃんとみたくてのう。
鴨居:なっ!!
スクナ:どうじゃ?キュートじゃろ?
鴨居:お、おまえ・・・
鴨居:人になれたのか?
スクナ:数百年生きていたら、これくらいの芸当はできるわ。
スクナ:あと、何か言う事はないのか?
鴨居:なぜあそこにいた?
スクナ:・・・だからヌシが気にしている娘子がー!!
鴨居:いや、そうじゃあなくて・・
鴨居:社を出れたのか?
スクナ:誰が引きこもりじゃ
スクナ:やる気があれば普通に出れるわ・・・。
スクナ:他には聞かないのかえ?
スクナ:ほら、スラーっとしていて、足なんてまるでカモシカのよう・・・
鴨居:ってか千里眼でみてただろうが
スクナ:・・・ヌシ、絞め殺して丸のみにしてやろうか?
スクナ:(溜息)もういいわ。
スクナ:千里眼で見えたとしても、ちゃんと肉眼で見てみたいものなんじゃ。
スクナ:ヌシが考えてることもあるしのう。
鴨居:・・・それで、人に化けて何をするつもりだ?
スクナ:なぁに、ただ話しをするだけじゃ。
スクナ:娘子とな。
鴨居:話す必要がないだろ。
スクナ:いいや。話す必要がある。
スクナ:ヌシがしようとしている事を本気でやるのであればな。
鴨居:・・・俺はまだ話していないぞ
スクナ:話さずとも、わかるわ。
スクナ:・・・さぁて、部屋を教えてくれないかのう。
鴨居:言わなくても知ってるくせに
スクナ:まぁ、そこは聞くのが礼儀じゃろうが。
鴨居:・・・こっちだ。
スクナ:うむ。案内感謝する。
スクナ:
スクナ:
:【間を開ける】
:
:
日向:あ、先生。
日向:・・・えっと。後ろの方は?
鴨居:あぁ。俺の知り合いで・・
スクナ:同居しております・・・鴨居スクナと申します。
日向:同居!?
日向:せ、先生!!たしか独身ですよね!?
鴨居:・・・頼むからへんな誤解をさせないでくれ・・・
スクナ:ふふ。良いではありませんか・・。
スクナ:私はただ本当のことを・・・
鴨居:一体なんの嫌がらせだよ!!
鴨居:あれか!?さっき褒めなかったからか!?その仕返しか!?
スクナ:ふふ。一体なんのことでしょうか?
鴨居:その口調はなんだよ!!
スクナ:少々揶揄いすぎましたかね?
スクナ:・・・古今東西、雄は今でも淑女を求めている阿呆よのう。
スクナ:では、ヌシよ。あの娘子と話をするので、席をはずせ。
鴨居:・・・。へんな事するなよ。
スクナ:なぁに。話すだけじゃ。
日向:あ、あの・・・。
スクナ:あぁ、すまなかったのう。
スクナ:奴・・・えーっと鴨居を揶揄う為に芝居をうたせてもらっただけじゃ。
スクナ:ヌシ。名前はなんという。
日向:日向・・・りんです。
スクナ:ふむふむ。
スクナ:良い名じゃ。日輪とはまるで神のような名じゃ。
日向:えっと・・・。
スクナ:なぁヌシよ。
スクナ:鴨居から何も聞いていないと思うが・・・
スクナ:奴はちょっと特別な力をもっていてのう。
日向:特別な・・ちから?
スクナ:ふむ。10年ぐらい経つかのう・・・。
スクナ:奴がまだ普通の人間だった時。
スクナ:ある神社で一人の男を助けたのじゃ。
スクナ:その男こそ、この神社の主祭神(しゅさいじん)だったのじゃ。
日向:ちょ、ちょっと待ってください!!
日向:神様?え?どういうことですか?
スクナ:非現実的だと言いたそうじゃな。
スクナ:まぁ、先代の主祭神とは長い付き合いだったのじゃが・・・
スクナ:夫婦の契りを交わした相手柄でありながら、何を考えておるか今でもさっぱりわからぬ。
スクナ:何を考えたのか、鴨居に礼だと言い、力を与えた。
スクナ:我々と同じ力。神の力を授けたのじゃ。
日向:・・・神の・・・ちから?
スクナ:そうじゃ。
スクナ:そうして、鴨居孝彦(かもいたかひこ)という人間はこの土地に祀られる神になったのじゃ。
日向:で、でも・・・鴨居先生は人間・・・ですよね?
スクナ:人間?奴は人間という肉の器を持った神じゃよ。
スクナ:現人神(あらひとがみ)という存在じゃ。
スクナ:神無月には神達と共に宴を楽しむくらい神をやっているぞ。
日向:・・・どうして。
日向:どうして、その話を私にしたんですか?
スクナ:ふむ。
スクナ:まったくもって気になる質問じゃろうな。
スクナ:それは・・・ヌシの身体に関係がある。
日向:私の・・・身体?
スクナ:ヌシ、このままだとその肉体は半年と待たずに黄泉に行ってしまうじゃろう。
日向:っっ・・・!!
スクナ:まぁ安心せえ。
スクナ:ヌシはまだ黄泉には行かぬよ。
日向:何が・・・何が安心しろよ!!
日向:半年以内に死んでしまうって言われて安心できるわけないじゃない!!
スクナ:だったら何故ワシがヌシと話をする必要がある?
日向:知らないわよ!!!
日向:誰だかわからないけど、帰って!!帰ってよ!!
スクナ:・・・ギャーギャー騒ぐな。人間。
スクナ:今から大事な話をするんじゃ。聞く耳をもて。
日向:だから帰ってってば!!
日向:・・・っ!!
スクナ:・・・ようやっと大人しくなったか。
日向:・・・・!!
スクナ:どうした?今度はだんまりか?
スクナ:ワシの顔に何かついておるのかのう・・・?
日向:ば、化け物・・・
スクナ:化け物とは心外じゃなあ。
スクナ:ただの白蛇じゃろ?
スクナ:ほんの少し大きいだけの、ただの喋る蛇じゃ。
日向:誰か!!たすけっっっ!!
日向:(尻尾で身体を締め付けられ、口を塞がれる)
スクナ:騒いでも無駄じゃ。
スクナ:では、ヌシに選ばせてやろう。
スクナ:絞め殺されたいか?牙で喉元を掻っ切ってやろうか?
スクナ:それとも・・・己の病で逝きたいか?
日向:んんっ・・・・・・
スクナ:おぉ。すまなかったな。どれ・・・口だけは開けてやろう。
スクナ:じゃが、助けを求めたらヌシを殺す。よいな?
日向:んん・・・
スクナ:・・・では。答えを聞こうかの。
日向:・・・たくない・・
スクナ:なんじゃ?もう一度言ってみい。
日向:しに・・・たくない・・・
日向:私は・・・まだ死にたくない・・・!!
スクナ:・・・最初からそう言えばよかったのじゃ。
スクナ:ほれ、神からありがたい言葉を聞くがよい。
日向:・・・。
スクナ:ヌシが黄泉に行かぬ方法がある。
スクナ:肉体もそのまま現世に残る。
日向:・・・本当?
スクナ:ワシは本当の事しか言わぬ。
スクナ:それなりの覚悟が必要じゃが・・・。
スクナ:まぁ、それは知らぬ方がよいな。
スクナ:では・・・鴨居を連れて三人で話すとするかのう。
日向:・・・覚悟?
日向:
日向:
:【間を開ける
:
:
スクナ:・・・という訳で。
スクナ:全部話してしもうた。
鴨居:す・・・スクナぁぁぁ・・・!!
鴨居:お前・・・なんて事を・・!!!
スクナ:ワシは悪くないわい。
スクナ:ヌシがやろうとしている事に比べたら・・・
日向:せ、先生・・・私に一体何をするつもりなんですか・・・?
鴨居:・・・(溜息)
鴨居:仕方ない。スクナが話してしまったのなら・・・
鴨居:話すしかないな。
鴨居:・・・キミを僕と同じ状態にする。
日向:・・・は?
日向:え?ちょっと意味がわからない・・・。
鴨居:スクナから聞いたんだろ?
鴨居:俺が現人神。半分人間で、半分神様だって。
日向:いや、それは聞いたけど・・・。
日向:頭が全然追いついて来ないのに、また意味の分からない事を・・・
鴨居:簡単さ。
鴨居:神様になるんだ。
日向:はいそうですかーって言えるわけないんじゃあないですか!!
日向:先生!!頭大丈夫なんですか!?
鴨居:悪いのはキミの病気のほうだ!!
鴨居:それを治す事は、俺にはできない。
鴨居:いや、今の医療技術ではできないんだ。
日向:・・・。
鴨居:だが、キミが神になれば身体は死ぬことになるかもしれないが、
鴨居:精神は生き続けられる。
日向:・・・すみません。先生。
日向:ほんっっっとうに。頭大丈夫んですか?
鴨居:俺は大真面目で話している。
日向:・・・バカバカしい。
日向:確かに、スクナさんが大きな蛇になった時はびっくりしました。
日向:本当に神様っているんだって本当に思いました。
日向:・・・ですが、私を神様にするって・・・それ本気でいってるんですか?
スクナ:普通はそう思うじゃろうな。
日向:それで?
日向:私が仮に神様になったとして、私は今後どう生きて行けばいいんですか?
鴨居:簡単だ。
鴨居:この土地の為に生き続ければいい。
日向:また意味の分からないことを・・・!!
日向:先生・・・アナタ、馬鹿なんじゃあないですか!?
鴨居:馬鹿と言われてもかまわない!!
鴨居:日向さん!!キミを助ける為なら・・・
鴨居:・・・たとえ、どんな方法を使ったとしても。
日向:・・・(溜息)
日向:あの言葉はそういう事だったんですか・・・。
鴨居:そうだ。
鴨居:・・・神に、なってくれるね?
日向:先生・・・嫌です。
鴨居:なんでだ!?
鴨居:責任をとるって言ったじゃあないか!!
日向:そういう責任の取り方を望んだわけじゃあない!!
日向:ちゃんと考えろ馬鹿!!
鴨居:馬鹿とはなんだ!!
鴨居:これでも一応、神だぞ!!
日向:さっきは馬鹿って言われてもかまわないとか言ってたくせに!!
日向:だいたい先生は・・・(大咳)
鴨居:日向さん!!
日向:(呼吸困難)
鴨居:大変だ・・・今すぐ治療室に・・・いや、間に合わない・・。
鴨居:・・・スクナ!!
スクナ:同意を得なくていいのかのう。
鴨居:俺の時だってそうだったじゃあないか!!
鴨居:早く!!
スクナ:わかったわかった。
スクナ:今初めてやるから落ち着かぬか。
スクナ:・・・まったく、別れの言葉もゆっくりさせて貰えぬのか。
スクナ:さらばじゃ。鴨居孝彦よ。
スクナ:
スクナ:
スクナ:
:【間を開ける】
:
:
:
日向:・・・こ、ここは?
スクナ:目が覚めたようじゃな。
日向:うわっ!!
スクナ:そんな驚かなくてもよかろう。
スクナ:この姿を見るのは二度目であろうに。
日向:あ・・・いや・・・スクナさんか。
日向:ごめんなさい。
スクナ:身体の調子はどうじゃ?
日向:んー・・・ちょっと寝たら良くなったみたい。
日向:身体が軽くなった感じかしら・・・。
スクナ:それは良かった。
スクナ:ちゃんと儀式は成功したようじゃ。
日向:・・・はい?
スクナ:だから儀式は成功・・・
日向:儀式ってなによ!!!
スクナ:儀式は儀式じゃ。
スクナ:ヌシの身体に神を移した。
日向:・・・なんて事を・・・
日向:スクナさん・・・ちょっといい?
スクナ:なんじゃ?
日向:先生。今何処にいます?
日向:殴って元の身体に戻してもらいます。
スクナ:無理じゃ。
日向:だったら先生を殴ることだけやりますから!!
日向:先生はどこ!?
スクナ:だから無理なんじゃ。
スクナ:鴨居孝彦という存在はもうすでにいない。
日向:・・・え?
スクナ:神渡しと言ってな。
スクナ:神が人に力を授けることができるんじゃよ。
スクナ:授かった神は現世にとどまる事はできぬ。
スクナ:それどころか、人間の身体で神渡しを行ったんじゃ。
スクナ:身体はもちろん。存在そのものが消えてしまったはずじゃ。
日向:・・・存在そのもの?
スクナ:この世にいたという事が消えてしまった。
スクナ:つまり、ワシとヌシ以外の者は皆、鴨居孝彦を忘れてしまったんじゃ。
日向:・・・そんな。
スクナ:仕方がない事じゃ。ヌシが悲しむ必要はない。
スクナ:こうなる定めだったのじゃ。
日向:どうしてよ・・・。どうして・・・。
スクナ:ワシは止めた。
スクナ:いや、止めようとした。
スクナ:じゃがな。ヌシよ。
スクナ:奴は馬鹿じゃが約束は守る男じゃった。
スクナ:先代・・・ワシの旦那様もそこを気に入っておられた。
日向:・・・たとえどんな方法でも・・・
スクナ:少し席を外すぞ。
スクナ:ワシもやらねばならぬことがあるのでな。
日向:・・・。
スクナ:・・・ヌシ様よ。
スクナ:何故、神渡しを鴨居に授けたのでしょうか?
スクナ:ヌシ様にも何か考えがあるのでしょうが・・・このスクナの知恵では何もわかりませぬ。
スクナ:・・・ヌシ様。
スクナ:あの小娘が、この地を。ヌシ様が創ったこの地を救う事ができるのでしょうか・・・
スクナ:・・・オオクニヌシ様。