島原偽物語
タイトル【島原偽物語】
配役1;1
●土方歳三(ひじかたとしぞう)♂
◯すずめ♀
ジャンル;ラブストーリー
本編……
●元治(げんじ)元年。6月5日。長州、土佐藩の尊王攘夷派志士(そんのうじょういはしし)を襲撃した事変。
池田屋事変。これで新撰組の名はさらに上がった。
血の匂いをちらつかせ、俺は隊士らと共に島原へと繰り出した…。
◯おいでやすー。土方はんお久しゅうございますー。
●俺は酒はそんな呑まねぇからな。
◯あら、でもおばんするだけでもええやないですか。
此処のウナギとおみおつけは美味しいとお客はんも言うてはりますえ。
●一人で来るようなところじゃあねぇだろうが…。
ウナギを食うだけに島原に来る馬鹿はいねぇ。
◯そんなら、うちに会いに来てくれはったらええやないですか?
●お前に?
◯お前やのうて。すずめと呼んでおくれやす。
●そんな、名前なんてどうでもいいだろうが。
◯どうでもよーおまへん!
うちの名前は、ねーさん達につけてもーた大事な名前どす。
●ふっ…姉さんね…。
◯血の繋がりがのうても、ねーさんはねーさんどす。
偽物と言われても、信じる事で偽物が本物になると思てます。
●……俺はニセモンに笑ったわけじゃあねえよ。
ニセモンも、本気で信じりゃ、誠になる。
お前…じゃなかったな。すずめ…酌(しゃく)を頼む。
◯へぇ、おおきに。
●すずめ…お前も呑め。
◯お言葉に甘えて、おおきに。いただきます。
【間を開ける 】5秒
◯それにしても、土方はん…。
そんな色っぽい顔してはりますのに、よおおもてになりまへんなぁ。
●女は……俺の刀を鈍らせる。
◯でも……土方はんに愛されるようなおなごはんは
ちょっぴり。妬いてしまいますなぁ
●それは……聞かなかった事にしておこう。
俺は…俺達はまだニセモンの武士だ。
ニセモンが誠になれるまで、女はもてねぇ。
◯そんなら!!偽物でもかましまへん!!
偽物の愛をうちにいただけませんか!?
●……俺からは何も出せねぇぞ。
それでもいいのか?すずめ…。
◯うちは……土方はんのおそばにおられたらええどす。
うちはそれだけで幸せや。
●ニセモンの家族の女とニセモンの武士の男。その恋愛すらニセモン。
信じていれば、いつかは誠になる。
俺はいつ誠になれるんだ?
俺は……いつすずめを本当に好きになってやれるんだ?
偽りの愛をすずめに捧げ、すずめは誠の愛を俺に返す。
そうやって偽ったまま年月が経ち。慶應(けいおう)4年に戊辰戦争(ぼしんせんそう)が勃発し、
新撰組も隊士を率いて闘ったが、新政府軍に敗北し新撰組は、江戸に向かった。
◯土方はん!!
●すずめ……。すまん。俺達は京都を離れる。
◯うちも!うちも土方はんと一緒に!!
●それは……だめだ。
◯なんでどす!?なんで土方はんのおそばにおられまへんの!?
●俺とお前は夫婦ではない。
だから……俺はお前を連れて行く事はできない。
◯そんならうちを土方はんの嫁にしておくれやす!!
●すずめ…。
すまない。俺はもしかしたら死ぬかもしれない。
そんな俺に嫁なんか貰ってはいけない男だ。
だから…。だからなすずめ。
もし、俺がこの戦いで勝って、生き残って戻ってきたら…。
すずめ…結納をしよう。
◯土方はん…おまちしてはります…。
●俺は生き続けた。何度も戦い、何度も敗北して、何度も生き残った。
しかし、明治2年箱館戦争にて、五稜郭の前で新撰組副長、土方歳三は死んだ。
約束は…果たせなかった。
だが、ニセモンだった恋愛は…誠になっていた。
俺は、すずめを本当に愛していた。