化かされ

声劇落語【化かされ】

 

 

 

皆さまは、狐や狸と言われたら何を想像されるでしょうか。

 


えぇ、そばやうどんを思い浮かべる方もいらっしゃるでしょうが、

人や物に化けて人間を驚かす……ってのがこの動物達にはできると言われております。

 


まぁ、本当に出来る訳じゃあありませんが、昔からそんな風に言われておりました。

 


そう……こんな風に……。

 

 

 

●兄ちゃーん!!兄ちゃんいるかい??

 


◯ん?誰かと思えば、弥太郎じゃねぇか。

 そんな所突っ立ってねぇでお上がりよ。

 


●へへ、自分家にお上がりよって言われちった。

 


◯まぁ、お前はある意味では他所の子だと思いたいくらいの馬鹿さ加減だがな。

 それで、何かあったのかい?

 


●そうそう!染め屋の五郎さんってのがいるだろ?

 あの人がね……ふふふ。ふははは!!

 


◯おいおい、いきなり笑って気味が悪いじゃねぇか。

 それで染め屋の五郎がどうしたんだい?

 


●ふひひ……あ、笑すぎて忘れちまったよ。

 


◯本当に馬鹿だなお前は……。

 まぁ、でも五郎の噂話は俺の耳にも入ってるよ。

 狐に化かされて財布の中身、全部持ってかれちまったそうじゃないか。

 


●そうそう!オイラびっくりしたよ。

 


◯あぁ、あの五郎がねぇ……。

 真面目に商売してると思っていたが、まぁ、人間誰しも裏の顔ってのがあるってもんだな。

 


●え?兄ちゃん……馬鹿だなぁ。

 オイラにも五郎さんにも、頭の後ろに顔なんかついてねーよ。

 


◯いや、裏の顔ってのはだな。

 人にはまだ見せてないような事をしてるってことだ。

 


●そうなのかぁ。オイラてっきり後ろに顔があるもんだと思ったよ。

 


◯そんなあるわけねぇだろうが馬鹿。

 後ろに顔があるやつを見たことあんのか。

 


●ううん。ないよ。

 


◯まぁ、いいや。

 あ、五郎の話で思い出したんだけどよ、先週は酒屋の辰吉(たつきち)が狸に騙されたって言ってたな。

 


●え?今度は狸に??

 兄ちゃん……ちょっと聞いていいかい?

 


◯ん?どうした??

 


●狸や狐に化かされて財布の中身が空になるっていうのはさ。

 財布の中身を狸と狐に盗られたってことだろ?

 


◯まぁ……そうだな。

 


●……狸と狐は金を何に使ってるんだろうね。

 


◯……あー。そういう事か。

 違う違う。狸と狐っていうのはだな、人に騙されてお金を盗られたって言ってんだよ。

 


●じゃあ人に騙されてお金盗られたって言えばいいじゃないか?

 


◯それだと恥ずかしいだろうが。

 まぁ、どっちにしても恥ずかしいんだが、狸や狐に化かされたって言ったほうが気持ちは楽だからな。

 


 あ、ちなみに狐は女に化けて、狸は物を化かすみたいだな。

 


●へぇ……兄ちゃんは物知りだなぁ。

 


◯お前よりかはな。

 あ、そうだ……いい事思い付いたぞ。

 


●今度はイタチに騙されるかい?

 


◯ちげーよ。

 いいか。狸に騙されて財布の中身が空になったってお上(かみ)に言うんだよ。

 そしたら、それ以上可愛そうな事はないってお上は金を少しだけわけてくれるんだとよ。

 なんでも一両は軽く貰えると思っていいらしいな。

 


●そんなにもらえるんですかい!?

 


◯あぁ、ちょいと行ってみてお上に金もらってくるか

 

 

 

……と、軽い気持ちで化かされたとお上に報告をしに行くと。

まぁ、そんな軽い気持ちの輩というのは沢山いるわけで。

役所には人の山が。

それもどいつもこいつも狸に化かされたと……。

 


流石の人のいいお上も全員を追い返す始末。

 

 

 

◯いやぁ……人が多すぎて金貰えなかったな。

 遠くまで来てこのまま帰るって言うのも面白くないな。

 ちょっとその辺で一杯ひっかけて帰るか

 


●お、兄ちゃんの奢りかい!?

 


◯どーせ金なんて持ってねんだろ?

 俺が奢ってやるから、ついてきな。

 


●あははー!兄ちゃんありがとー!

 


□お兄さんお兄さん!!

 ちょっといいかい??

 


そこで声をかけてくる謎の美女。とても綺麗な着物を着て、かんざしをつけたいい女。

そんな美女に声なんてかけられた事のない男2人。

まぁ戸惑いますわな。

挙動不審な動きをしてしまい、声をかけた美女のほうが驚いてしまいそうになってしまう。

 

 

 

◯おおおお……おう。

 俺たちにナニカヨウカイ?

 


□え?あー……そうなんだけど……

 具合でも悪いのかい?

 良かったら私の働いてる店で休んでいきなさいよ。

 


●あああああ兄ちゃん……。

 どうしようオイラ……こんなべっぴんさんに声なんてかけられちゃってるよ!!

 


◯ば、馬鹿野郎!!

 いいいいくらべっぴんだからってな!!相手は女だ!!

 お前んとこのかかぁと一緒だ!!

 


●オイラのかかぁと!?

 そんなことある訳ないだろう!?

 あのべっぴんさんが月だったらオイラのかかぁなんて、もうスッポン通り越して牛蛙とかそっちだよ!!

 


◯お、おお……ひでぇ言われようだな。

 まぁ、俺のかかぁも同じようなもんだが……。

 とにかく、折角誘われたんだ。その店で呑んで帰るとするか。

 


●うんうんうんうん!!!

 

 

 

……と、ホイホイついてった男2人。

まぁ、美味しい話と美女には喰いつくなってのは今も昔も変わらないわけで……。

まんまと喰いついてしまった魚2匹。

 


釣られた魚がどうなるかは解りきったこと。

散々財布の中身を搾り取られた挙句、身ぐるみ すら剥ぎ取られ、

下着一丁で追い出されてしまい、お上に御用になってしまう始末。

 


☆それで……なんであんなところで下着一枚でうろうろ歩いてたんだ?

 


◯そ、それはですねぇ……

 おい弥太郎……俺の代わりに言ってくれよー!!

 


●そりゃぁ……狐に化かされてしまいましてね。

 財布も着物も全部取られてしまったんですよぉ!!

 あ、ちなみに狐っていうのは女狐のことね!!

 


◯馬鹿野郎!その言い方だと染め屋の五郎と同じになっちまうじゃねぇか!!

 


●え?でもこういう時って同じ言い方なんじゃないのかい?

 


◯ま……まぁそうなんだが……

 あ…お上!!違うんですよ!!本当に夜店に行って騙されちまったんですよ!!

 


☆(ため息)またそういう悪戯か…。

 化かされただの盗まれただのってもう聞き飽きちまった!!

 まぁ、お前らみたいに着物すら着てこない奴は初めてだったがな!!

 


◯あぁ……やっぱり信じてもらえねぇ……。

 これじゃあ狼少年じゃねぇか。

 


●いやいや。狼じゃなくて、狐に化かされたわけで。

 


◯弥太郎……。もう信じちゃ貰えねぇよ。

 このまま言い続けても、化かされたじゃなくて、馬鹿にされちまうぜ…。

 

 

 

お後がよろしいようで